いる。
東京の市内電車が素敵に混雑《こ》むのも便利である。同じ吊り革にブラ下ったり、膝っ小僧で押合ったり、いろんな事が出来る。
省線の電車も朝と夕方は一パイである。郊外から通う人が大部分なのと、停留場が遠い関係から、市内のようにザワザワしない。その間《かん》に眼と眼と見合ったのが度《たび》重なって、心と心へという順序である。
「殊に不良少年は郊外の方が多いのですよ。毎日見ているとよくわかります。後の方が空いているのに前のに乗ろうとしますから、無理に止めたら、泣き出した娘がありました。誰かと約束してたんだなと、あとで気が付きました」
と一人の車掌は語った。
音楽や舞踊、英語等の先生の処で出来た社交関係も随分多いらしく、新聞や雑誌によく出る。
浅草の奥山、上野の森、その他の公園の木といわず石といわず、若い人々の眼じるしにされて飽きている。上野の西郷銅像の前に夜の十時過ぎにしゃがんでいれば、待っている男女、連れ立って去る男女の二十や三十は一時間の中《うち》に見付かる。西郷さんが怒鳴り付けたらと思う位である。
バラック街は電燈で一パイであるが、裏通りには歯の抜けたように暗い空地があ
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