した飲食の新店、又はその新しい雇人は、不良式ゴマ化しに持って来いの研究相手である。
 そんな飲食店の食器や備《そな》え付《つけ》品を、初めは楊子《ようじ》入れ位から始めて、ナイフ、フォークに到る迄失敬して、泥棒学のイロハを習う。だんだん熟練して、額縁や掛物、皿小鉢や鍋に及ぶ。
 いい洋食店なぞは入口でマントや帽子を預かるが、これが盗難警戒である事なぞは先刻御承知であろう。
 尤《もっと》もこの式は大人もやるが、若い者も面白半分に盛にやる。だんだん慣れて来て、こんな楽なものかと思うのが本手になる始まりである。喰い逃げもよくやるが、詐欺の第一歩である。
 澄まして喰物を注文してポツポツやりながら、椋鳥《むくどり》を見つけて話し込む。その中《うち》に都合よく表に飛び出す……といった式が一番ありふれている。ポット出の学生なぞはよくやられる。

     借りたインバネス

 大勢連れで露店を掻きまわしたり、飲食店の皿数を胡麻化《ごまか》したりするのは、東京に限らぬ学生たちのわるさである。
 隣席の客の下足札をすり換えて穿いて行く。あとでお客が面喰らうのを見ているとなかなか面白いという。面白いかも知れぬが立派な泥棒行為である。
 一人の青年が、田舎者と公園で知り合いになって、一緒に飲食店に這入った。煙草を買いに行こうとすると、生憎《あいにく》雨が降り出したので、一寸のつもりで田舎者のインバネスを借りて出て行った。
「貸さない」
 とは云えないまま貸したものの、田舎者は心配になった。急いで金を払って、雨の中を青年の行った方へ行くと、二人の友達と四辻で話をしている。その中《うち》に電車が傍《かたわら》を通ると、三人共飛び乗って行った。
 田舎者は驚いた。
 近所の交番に駈込んで、電車の番号とその青年の風采を告げた。交通巡査が直《すぐ》に赤いオートバイを飛ばして、その電車を押えて、青年と友達を引っぱって来た。
 青年は三人共某大学生と名乗って、しきりに田舎者にあやまったが、田舎者は承知しなかった。三人は警察へ連れて行かれた。
 一時は真黒な人だかりであった。記者もその中の一人であったが、今でも本物の不良かどうかわからずにいる。
 大正十三年十月二日午後二時頃、浅草公園雷門前での出来事――。

     色魔学のイロハ

 女給をからかうのは、色魔学のイロハのイである。
 眼ざすカフ
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