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[#地から1字上げ]あなたの つや子より
なつかしい
私の邦彦兄さまへ
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この少女は明らかに江戸ッ子で才気がある。しかも色事に対する趣味を理解している。都会人の冴えた才智と不良性とが如何に密接な関係があるかは、この手紙の文句だけでも証拠立てられる。
少女のラブレター(七)
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ただ今なつかしいお便り有がとう存じました。
白秋のわすれな草を手にして……おりましたら、恋しいあなたからのお便り、……私の手は戦《おのの》きました。嬉しさに……二十七日には日比谷までお出下さったのですってね。
おゆるし下さいませ……すべては私が……ほんとうにすみませんでした。
こちらへお出下さるそうですわね……わざわざすみませんわ。水戸でもよろしいのですけど、人目が多いからよしましょう。
途中と申しましてもよく存じませんけど、利根川べりは?
あまり奇麗な町でも御座いませんけど、利根川が。土浦で下車しますの。上野から土浦までの切符をお求め下さいませ。そして土浦で下車して……わたくしも一番で参りますから……もしも早くお出になりましたら、停車場でお待ち下さいませ……。
お逢いするのはいつでもお逢いしたいのですけど……五日はいかがでしょうか。いつでもとのお言葉故、五日ときめますわ。では五日に土浦駅で御まち下さいませ。私、二十八日水戸へ参りまして海岸へ参りましたら、それはそれは色が黒くなりましたの。まるで土人のように……おわらい下さいますな。
お頭が痛みになるのですってね。お大切に遊ばせ。あなたの御健在を毎日祈っております。
こちらへ参りましてから、ほん当に無意味な日のみつづいてさびしいのです。時折あなたからのお便りを取り出しては、思いなやんでおりましたの。でも逢われて嬉しゅうございますわ。早く五日の来るのを待っております。ではね、何卒お願い致しますわ。五日に土浦までね。私ほんとに嬉しゅうございますわ。何と申し上げてよいやら……いずれお眼もじのうえ……。
もしも五日に雨が降りましたら、六日にいたしましょう。曇っておりましても実行します。神様は大丈夫お天気にして下さいますから。
恋しい欣吾様御前に
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[#地から1字上げ]喜のうちに 智恵子
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