パイに投げ込まれた……という事も今初めて書く。
「あたし、電車の中で不良少年から手を握られたのよ。癪に障ったからギュッと握り返してやったわ」と友達に自慢話をするような少女、「あなた、この頃メランコリーね。ホルモンが欠乏したの」と笑いくずれる程度の女学生なぞはザラに居る。
 これ位積極化すれば沢山である。

     二匹の白い蛾

 東京の若い女の享楽気分は、日に増し眼に余って行く。そうして、「性の悩み」に魘《うな》される少女を、次第に東京に殖やして行く。
 或る女学生が、不良行為をやって警察に引っぱられて行く途中で、懐中からマッチ箱を出してソッと棄てた。刑事が気付いて拾って見ると、中には一枚の厚紙があって、雌雄二匹の白い蛾が、生きながら二本のピンで止められて、ブルブルふるえていた……。
 記者はこの話をきいた時、馬鹿馬鹿しいと笑う気になれなかった。その少女がそんな事をした時の気持ちをよく考えているうちに、恐ろしいような、悲しいような、一種形容し難い鬼気に襲われた。
 孕《はら》み女の腹を裂かせてニッコリと笑った支那の古王妃の気持ち――それを近代式にデリケートにした気持ちを味わいつつ、その女学生は二匹の白い蛾を生きながらピンで突き刺したのではあるまいか。その二匹がブルブルとふるえつつも離れ得ぬ苦しみをマッチ箱に封じて、懐に入れて、独りほほえんでいたのではあるまいか。そうして、この頃の若い女性の胸にあふるる「性」のなやみの、云うに云われぬ深刻さ、残忍さ、堪え方さ、弱々しさが、そこにありありとあらわれているのではあるまいか。

     堕落して冷静に

 各種の避姙薬は彼女たちに安全な堕落の道を教える。化粧品屋は彼女達に永久の美を保証する。活動女優の表情はいつしらず彼女達に乗り移る。そうして、彼女達にその芸術的表情を実演すべき場面を心の底から求めさせる。
 気の利いた女学校の先生は、この時代相に迎合して、「そもそも姙娠という事は……」と性教育を試みる。生徒は真青《まっさお》に緊張してそれを聴く。
 このような気分に蒸し焼きをされる若い女性がどうして堪え得よう。実際に異性の香《か》を知らぬまでも、禁欲の苦痛を感じずにはいられぬ。
 その苦痛を一度でも逃れた経験を持つ女性は、必ずや男性に対する感じ方が違って来る。昔のように赤くなったり、オズオズする気持ちは出そうと思っても
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