まあそう屁古垂《へこた》れるな……
おれが力になってやる……
あの娘と夫婦《いっしょ》にしてやる……
徳市は頭を擡《もた》げて恨めし気に憲作を睨んだ。
憲作は睨み返した。ポケットから大きな黒いピストルを出して見せた。徳市の顔に自分の顔を寄せて云った。
その代り……
嫌だと云えあ……
これだぞ……
徳市は又うなだれ[#「うなだれ」に傍点]た。ブルブルと顫《ふる》えた。眼から涙を一しずく落した。
憲作はジッと徳市の様子を見てうなずいた。ピストルを引っこめて代りに札の束を出した。儼然《げんぜん》として云った。
心配するな……
サアこれを遣る……
この金でおれの指図通りに仕事をしろ……
でないともう智恵子に会えないぞ……
徳市は手を引っこめて小さくなった。
憲作は右手にピストル左手に札の束をさし付けてニヤリニヤリと笑った。
―― 12[#「12」は縦中横] ――
帝劇のステージで智恵子は大喝采の中に持ち役をつとめ終った。
徳市はフロックコートに絹帽《シルクハット》を冠って花束を持って楽屋に待っていた。
智恵子は母時子の手に縋《
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