味があるのである。
 隅田川は昔から水ッ子の初まった処であった。
 水ッ子と云っても、その中には堕胎《おろ》した児、生れてから殺した子、又は捨て児(これも結局は同じ事であるが)が含まれている。しかもその数は統計にも何にも取られたわけのものでないが、江戸ッ子の人口減少の一半を引き受けたと認められているのだから恐ろしい。
 隅田川はこんな残忍な、つめたい流れなのである。
 但、この水ッ子の親は決して江戸ッ子に限っていなかったことを、ここに断っておかねばならぬ。
 旧藩時代の武家は皆きまり切った縁をたよって、子孫代々まで暮さなければならなかった。三百年近く太平の世が続いたために、彼等の大部分は加増を受ける機会もなく、只夢のように生れては死んだ。只恐るるのは家族の殖えることであった。その結果が産児制限となったことは云うまでもない。
 その次にはブル階級の江戸ッ子の風俗の堕落である。彼等が如何に奢《おご》りを極めたか、彼等の主人が如何に甚だしい道楽を試みたか、彼等の妻子や召し使いなぞが如何に風俗を乱したかは、江戸時代に現われた小説や芝居や絵を見てもわかる。その結果が忌まわしい手術、又は恐ろしい犯
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