各所の避難バラックに逃げ込んだ避難民の中で、江戸ッ子が一番多いに違いないという推測は、この事実からでも推測されることである。純粋の江戸ッ子……すなわち永年東京に居るもので、地方に親類を持っているものは極少数であるとは震災前から聴いたことであった。そんなのが昨年の変災後落ちて行く処が無くて、仕方なしに取りあえず避難バラックに逃げ込んだであろうということは、誰しも容易に想像が付く。又事実、避難バラックの住民に江戸ッ子が大多数を占めていることは、前記の通りである。
江戸ッ子に親類がすくないということは彼等の人口が殖えぬということで、結局、彼等の子を産む数が些《すく》ないということになる。この事は古い統計にも載っているそうで、江戸ッ子は只新しく仲間入りをする田舎者で補充されて、やっとその命脈を保って来たらしいことが朧気《おぼろげ》ながら推測される。
さもなくとも、一般に或人種が文化の絶頂に達すると人口が減少する、殊に永年都会に居て、文化的な神経過敏な生活を続けている者は、自然と産児が減少して行くものであることは、近頃の学問でよく問題になっている。東京ばかりでない、世界各国の都市がみんな間違
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