ない。

     強制的屋根メクリ

 彼等避難民は、こうして巧妙に裏からと表からと皮肉られ、恥《はずか》しめられながら、大きな声で不平も云い得ぬ。それかといって、避難バラック大会を開いて、輿論《よろん》に訴えるという図々しさもない。……というのは、彼等自身がお互に、恥も体裁もかまわない、市民のために大切な公園を汚すと云われても公共的精神が無いと云われても聴かぬふりをしていよう、出来るだけ無家賃の処にヘバリ付いていようという、サモシイ心根を認め合っているからで、大びらに発表するような理由は無論ない。又|仮令《たとえ》発表しても、世間の同情がとっくの昔に彼等を離れている。彼等が、身から出た錆《さび》とはいいながら、一種の侮蔑的の眼で見られていることはよく知っているからである。
 彼等のうちの或るものは止むを得ずドウゾヤどうぞと日延べを願った。そうしてその日限りが来てもグズグズベッタリをきめ込んだ。催促されると、済みません済みませんと云っては、又日延べをする。
「そんな事じゃ埒《らち》があかぬ。お前たちがそんな腹なら、こちらも強制的態度を執《と》るぞ」
 と云われても、返事が出来ないで、
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