えかた》まらしているから、東京の市政が如何に腐敗していても、彼等には何等の刺戟を与えない。彼等の前にそうした記事を満載した新聞をさしつけても、彼等は只一渡り見まわして気の利いた批評をする位のことで、あとは顧みない。あくる日は、又何か別の面白い記事はないかと探している。
だから選挙なぞは、彼等にとってうるさいものでこそあれ、責任感はすこしも受けない。天下の事に憤慨するよりも、一鉢の朝顔に水を遣る真実味を愛するといった風で、驢背《ろはい》の安きに如《し》かずという亡国の賢人に似たところがある。
熊公八公の消息
江戸ッ子の智識階級は亡びてはいない。しかし只《ただ》一人一人に生きているというだけで、世間とか、他人とかいうものとは深く関係する事を好まない。
彼等の性格は、墓石のように、向う三軒両隣がお互に無関係でいたいのだ。彼等の魂は、燐火のように、お互に触れ合わずに、只自分自身だけ照して行きたいのだ。
こうして彼等は彼等自身を葬ってしまっている。極端にデリケートな自覚のために、無自覚と同じ姿になってしまっている。それを最も利口な文明的生活だと思っている。彼等の霊魂は、こう
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