く押し曲げさえすればズボンのポケットにでも何でも這入るから、鳥打帽と両方持っていてもちっとも邪魔にならない。すなわち校門を這入る時には制帽を冠り、電車に乗る時には鳥打を冠る位の手品は何でもないので、只その都度魂を入れかえるのが面倒臭いだけになる。但、そんなに手早く魂を入れ換え得るかどうかは、帽子と違うからちょっと外から見わけにくい。そこを付け込んで彼等は盛に制帽と鳥打帽を使いわける。
 使いわけると云っても取り換えるだけの事だから、ちょっと考えると何でもないようであるが、なかなかどうして、大学を卒業してもこの鳥打帽使いわけの奥義に達しないのがいくらでも居る。ウッカリすると学校のどの科目よりも六ヶ《むずか》しいかも知れぬ。
 先ず見易いところから例を取ると、真面目な家庭を訪問する時には制帽を冠る。散歩する時には無論鳥打帽である。
 儀式ばった処へ行くのには制帽で、活動を見に行く時は鳥打でなければ工合が悪いらしい。
 お医者に診てもらいに行く時には制帽がよろしいが、弁当代りにサンドウィッチを喰いに行く時は鳥打帽にかわる。
 割引切符を買う時は無論制帽の方が都合がいいが、汽車に乗り込んでしま
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