った。
 たとえば、丸の内やその他各区の各方面の往来の到る処に行われている道路工事が、下水の事を殆ど念頭に置かないでドシドシ行われていることは、どんな素人眼にもわかる。否、下水ばかりでない。少し気を付けて見ると、水道管や瓦斯《ガス》管、地下線、そんなものは一切お構いなしに、只|上《うわ》っ面《つら》だけをアスファルトや木煉瓦《もくれんが》で塗り埋められていることがよくわかる。
「こうやっておいて、又じきに掘り返すんだからなあ。そうして税金をドシドシかけて来るんだから、イヤンなっちまう」
 という言葉は、道路工事で入り口を閉《ふさ》がれた商店の人々が一様に云う不平である。
「何でもおれ達の任期中にやっ付けてしまえ、今度当選するかどうか分からないから」
 と市会議員が相談したかどうか知らないが、こんな乱暴な工事をこう無暗《むやみ》に進行させるところを見ると、何だかそう思われてならぬ。
 この工事がちゃんと筋道の立ったもので、将来の都市計画に差支えない処だけやっているものであるかどうかということは、市民にちっとも知られていないらしい。隅田川にも、大きな橋が一つ二つ新しく架けられているようであ
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