この百万円の花火がタッタ一発上がった切りスッと消えてしまうと、あとの世界は又薄暗い不景気になってしまった。
 皇室では内帑《ないど》を御|約《つづ》め遊ばすという。浜口蔵相は大整理を断行するという。銀行は大合同になりそうだという。復興債券が売れたのは、不景気でもがいている人間が多いためだという。
 何だか知らぬが、東京市の内外に空屋が殖《ふ》えたのは事実である。新しいバラックもたしかに殖《ふ》えなくなったようである。それかあらぬか、浅草へある用事で一ヶ月ばかり通っているうちに、賑やかな店のかわったのがいくつも眼に付いた。中には半月ばかり置いて、二度も商売のかわった店を見受けた。尤《もっと》も、浅草の六区界隈の地代は一坪で三四十円は間違いなく取られるので、不景気だと真先にこたえるのはここであるが、それにしてもあんまり甚だしい。
 然るにこの不景気も、日本橋から銀座という東京目抜の通りに来ると、余り眼に付かない。三越、丸善、ホシ製薬、玉屋、天賞堂、白木屋と、まだいくらでもある有名な大商店、大銀行、大会社、大ビルディングがドシドシ復活して、古い暖簾《のれん》を振りまわしている。こうした大
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