凄いのが驚くべき多数に上っている。
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   商売の巻



     最新式「無言の正札」

 或る哲学者がこんな事を云った。
「おかめ[#「おかめ」に傍点]とヒョットコの小さなお面を背中合わせにして、中に笛を仕込んだオモチャが昔あった。あのおかめ[#「おかめ」に傍点]の愛嬌が『商売』を象徴《あらわ》し、ヒョットコの仏頂面が『生活』を標示している。これを両方から押えるから、ピーピーと世間が成り立って行くのだ」
 そのつもりで東京人の商売振りを観察して見る。
 ボンヤリと浅草に来て見る。ここならいろんな商売があるだろうという了簡《りょうけん》である。
 雷門前の仲見世は昔にかわらぬ繁昌で、雨の降る日でも一軒二百円の収入があるというが、何だかあまり儲かり過ぎるようだから噂だけにしておく。
 どの店も大勢の人通りの前にズラリと商品を並べているが、どの店もどの店も黙りこくった愛嬌のない顔が並んでいるのが一寸《ちょっと》眼につく。無論、立寄ればすぐに、「入らっしゃいまし」とか何とか黄色い声を出すが、さもない時は口を一文字に閉じ、つまらなさそうな眼付きを
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