わるよ。赤旗になったから……」
なぞとやっている。驚いたのは、女学生がこんな事によく気をつけている事で、山の手線電車の待ち合いで大勢寄って、真似し合って笑っているのを見た。
「須田町のはこうよ……駿河台下のはこうよ……」
といった風で、名前ばかりでも十二三聴いた。その中で記者のノートに残っているのは、
まねき猫、お湯|埋《うず》め、蠅追い、スウェーデン式、鰌《どじょう》すくい、灰掻き、壁塗り
なぞ……女学生と小学生と名前のつけ方が違っているところが面白い。
こんな風に電車の中ばかりでなく、普通の往来まで緊張して来たことは非常なもので、殊にその音響と来たらちょっと形容が出来ない。東京の悪道路の事は前に書いたが、それだけに自動車や電車のわるくなり方も甚だしいと見えて、さなきだに八釜《やかま》しい往来が一層烈しくドヨメイて、肩を並べながら話しも出来ない有り様である。
その中を只専心一途に自分の方向を守って、眼を光らし、耳を澄まして行かねばならぬのが東京人の運命である。そのためにその神経は益《ますます》冴え、その気持ちには余裕が無くなって疲れ易く、興奮し易く、泣き易く、怒り易くなる
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