この半分東京化した地方人の大多数に、従来から東京に居た人間の種類を加えて見ると、現在の東京にはどんな人間が居るかという事があらかたわかる。
 いの一番の筆頭は華族様、富豪なぞいう御方々で、東京では勿論の事、日本でも上流のパリパリ。汽車なら無論白切符か特等車で、自動車なら紋章入り、一台以上の格である。人数は無論震災前とあまり変らぬ。又|無暗《むやみ》にかわっては大変である。
 第二は知識階級を中心とした江戸ッ子と非江戸ッ子で、切符なら青赤混合というところ。自動車ならば無論持たず、プロ意識の最強烈な中流の種族である。
 この非江戸ッ子の中に学生と腰弁がいる。学生の方は家族同伴が些《すく》ない事と、東京の復興に直接努力をしない事を特徴としている。その代り最新式の気分を真先かけて高潮させる役目は、いつものがさずに受け持っている。腰弁の方は家族同伴でやって来た新分子が多い。しかも学生と違って、直接復興事業に携わっているのが半数以上と想像される。
 次は純赤切符(といっても小学卒業内外)階級の江戸ッ子と非江戸ッ子である。その中で後の連中には、各種の車掌や運転手(巡査級もこの中に入れていいかどうかは考慮中である)なぞいう壮年青年の男、又は若い女が多い。東京復興の下廻りをやる労働者、又は復興気分を飾る女事務員、給仕女といった人々で、現在の東京の各階級の中で最大多数を占めている事は、町を歩いて見れば一目瞭然である。
 以上の各人種の居る処を極く大まかに区別すると、中流以上は山の手から郊外に居るので、旧東京人が多い。それ以下が下町のバラックに居て新東京人となり、新東京の新文化を作りつつある事になる。
 このような各人種がどんな生活を営んでいるかという事は、面白い且つ大なる研究問題である。
 東京人の生活といっても一概に云えぬ。世界一の大都市だけに、上中下どれともつかぬ階級の人間や、思い切った変態生活者が夥《おびただ》しい。
 金鎖を下げた乞食……三年も湯に入らぬ富豪……家の無い自動車持ち……妾の四五人も居る無妻主義者……愛国的の名目を持つ亡国運動者……社会主義的団体名を振りまわす成り金崇拝者なぞ、数え立てれば限りもない。
 勿論地方にも居るが、東京には特別に多い。
 それは十把一カラゲに街頭から見た観察だから、多少の見損いは許していただきたい。

     百万円の花火一発

 今
前へ 次へ
全96ページ中72ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
杉山 萠円 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング