シャベリなのにどうして口が無くなったのでしょう」
と姫はあんまり不思議なお話なのに驚いて、眼をまん丸くして尋ねました。
若い人はそのわけを話しはじめました。
「それはこういうわけです……昔、この国中の人は何でも見たことやきいたことを、ひとにお話しすることが好きでした。そうしてお話の上手なオシャベリの人ほどみんなから賞められましたので、だれもかれもおもしろいお話をしよう。みんなビックリするようなオシャベリをしよう、しようと思いました。そのためにだんだん嘘をまぜて話すようになりまして、とうとう嘘の上手なものがオシャベリの上手ということになりました。そうしてこの国中の人々は毎日毎日嘘のつきくらばかりして、本当のことは一つも云わないようになってしまったのです」
「まあ……それじゃみんな困ったでしょうね」
「エエ、ほんとにみんな困ってしまいました。誰の云うことも本当にされないからです。その中《うち》にこの国とよその国と戦争がはじまりましたが、いくら敵が攻めて来たと云っても誰も本当にしません。戦争の支度もしなかったものですから、この国の人は滅茶滅茶に敗けて、もうすこしで国中がすっかり敵に取られ
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