鉄の室の中の鉄の床の上に寝かされています。そうして傍《かたわら》に、だれか一人の男の人が心配そうな顔をして自分を見ています。
空にはいつの間にか真っ黒な雲が出て、風が吹き出していましたが、折から雲の間《ま》を出た月の光りでその人を見ますと、その人はまだ若い気高い人で、身体には美しい紫色の着物を着ていましたが、なおよくその顔を見ますと、その人の口は、この国の人間のように絵で書いたものでなく、本当の赤い唇なのでした。
「アレ」
と叫んで姫は飛びおきました。
「あなたのお口は本当のお口……」
こう叫びますと、その若い人は白い歯を出してニッコリ笑いました。
「ハイ、私はこの国のあわれな片輪者です」
「まあ……あなたが片輪者ですって」
と姫は又ビックリして尋ねました。若い人は静かな声でこう答えました。
「そうです。この国は口なしの国と云いまして、この国中の人はみんな口が無いのです。鳥でも獣《けもの》でも虫までもそうなので、声を出すものは一つもありません。雷と、雨と、霰と、風と、水の音――そんなものしかきこえないのです。それは昔この国中の人があんまりオシャベリだったからです」
「まあ……オ
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