した。
「オホホホホホ。マア可笑《おか》しい。皆さんはどうしてそんなにお口がないのですか。どうしてそんなに片輪におなりになったのですか。鼻の穴には歯も舌も無いのに、どうして御飯や何かを召し上るのですか。それとも、こんな牛乳みたような汁ばかり飲んで生きておいでになるのですか。オホホホホホ。まあ、おもしろいこと。どうりでみなさんは、一人も口をお利きにならないのですね。お話も出来なければ歌もお歌いにならないのね。まあ、どんなにかつまらないでしょうねえ。オホホホホホ。ああ、可笑しい。ああ、おもしろい。変な国ですこと。アハハハ、ホホホホホ。ああ、あたしはもうお腹の皮が痛くなりそうよ。あんまり可笑しくて可笑しくて……」
と腹を抱えて笑いながらシャベリ続けました。
そうすると、よもや聞えまいと思っていた人々の耳に、オシャベリ姫の言葉がすっかり聞えたらしく、まず一番にお妃はさもさも恥かしそうに涙を流して室を出て行きました。
あとに残った王様は鬼のような恐ろしい顔になって、腰にさしていた短刀を抜いて姫を捕えて殺そうとしました。
姫は驚いて、
「アレ、御免なさい、御免なさい」
と言いながら、鉄の机の下に這い込んで、あっちこっちと逃げまわりますと、大勢の大将は八方から手を延ばして捕まえようとします。それをすり抜けすり抜けしているうちに、やっとの思いで隙《すき》を見つけて机の下から飛び出して、廊下をドンドン逃げ出しました。
あとからは、大勢の大将や兵隊が王様を先に立てて追っかけて来ます。
姫はもう一生懸命でした。
身体《からだ》が小さいのを幸いに窓を抜けたり床の下をくぐったりして、やっとの思いで庭に出ましたが、この時はもうお城中の大騒ぎで、声はきこえませんけれども、あっちにもこっちにも兵隊が手に手に短刀を持って姫を探しているのがよく見えます。
オシャベリ姫は震え上りながら、なるたけ暗い方へ暗い方へと木や家の隙を伝って、やがて一つの森の中に入ると、ドンドン走り出しました。
やがて、その森の向うの端のお月様のさしているところまで来ますと、そこには一つの高い高い鉄の塔がありまして、その下に小さな入り口がありました。
姫は喜んで、すぐにその中に這入ろうとしましたが、その時にヒョイと気が付きますと、その入り口一パイに網を張って、一匹の大きな蜘蛛が餌の引っかかるのを待っています。
姫はあまりの恐ろしさにあとしざりしました。
けれどもその時に、又姫がうしろをふりむいて見ますと、鉄のお城の方ではあっちにもキラリ、こっちにもキラリと光るものが見えます。それはみんな短刀で、それがだんだんこちらの方へやって来るようです。
姫は、どうしてもこの鉄の塔の中に逃げこまなければ、ほかにかくれるところが無くなってしまいました。
姫は泣くには泣かれず、逃げるには逃げられません。前には蜘蛛が待っていますし、うしろからは短刀を持った人が追っかけて来るのです。姫はもう恐ろしくて悲しくて、ブルブルふるえながら立っておりました。
そうすると、はるかに高い高い塔の上から美しい唱歌の声が聞こえて来ました。
「きれいなきれいなお月様
くうろい雲にかくれても、
泣くな、なげくな、悲しむな
やがて出て来る時がある
可愛い可愛いお姫様
大きな蜘蛛にとられても
泣くな、なげくな、こわがるな
いつか助かる時がある」
それをきいたオシャベリ姫はすぐに思い切って、鉄の塔の入り口一パイに張ってある蜘蛛の網を眼がけて飛びこみました。
ところが、その蜘蛛の網はたいそう丈夫な網で、姫の力では破ることが出来ず、かえって姫の身体《からだ》にヘバリ付いて逃げられなくなってしまいました。これは大変と藻掻《もが》けば藻掻《もが》くほど、蜘蛛の糸は身体《からだ》にヘバリついて、手や足にからまって、しまいには動くことが出来なくなってしまいました。
これを見た蜘蛛は大きな眼を光らし、大きな口をワクワクと動かしながら姫を眼がけて飛びかかって来ました。
オシャベリ姫はあんまりの恐ろしさに気絶してしまいましたが、蜘蛛の方は姫を捕まえると、そのまま沢山の糸を出して姫をグルグル巻きにして、鉄の塔の隅っ子の方へ仕舞いまして、自分は又入り口のところへ来てグルグルまわっているうちに、網をもとの通りにすっかり張り直してしまいました。
そこへ鉄の国の王様が先に立って、沢山の兵隊が手に手に短刀を光らせながらやってきましたが、蜘蛛の網が入口に奇麗に張ってあるのを見ますと、その中に誰も這入ったものがいないと思ったらしく、そのまま行ってしまいました。
オシャベリ姫はそんなことは知りません。何だか夢のように、自分がだんだん高いところへ昇って行くように思っていましたが、やがて気が付いてみると、自分は一つの小さな
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