ているので登ることが出来ません。しかたなしに八方から鉄の塔を取り巻いて、ヒューヒューと矢を射かけましたが、あまり塔が高いのでみんな途中まで来て落ちてしまいました。
 王子はそれを見ながら、あまりの恐ろしさにワナワナふるえている姫にこう云いました。
「この兵隊どもはみんな、この国の風下の町々から来た兵隊です。さっきから私たちがお話した声が風下の町や村へすっかりきこえたそうで、この塔の上に魔物がいるというので、父の王に早く退治るように云って来たのです。父の王も母の妃も、そのお話をしたものがあなたと私で、魔物でも何でもないことはよく知っていたのですが、昔からこの国ではオシャベリをしたものは殺すことになっているのですから、殺さないわけに行きません。すぐにお城の中でも兵隊を繰出すように云いつけましたので、母の妃は心配して、早く逃げるように知らせに来たのです。けれども悲しいことに口を利くことが出来ないので、しかたなしに中に這入ろうとしたために蜘蛛の巣に引っかかってあんな目に合ったのです」
「まあ、ほんとに御親切なお母様ですこと」
 とオシャベリ姫は涙を流しました。
「けれどももう遅う御座いました。この塔はもう八方から兵隊に取巻かれて逃げることは出来ません。只逃げる道が一つあるきりです」
「えっ、まだ逃げる道があるのですか」
「ありますとも。あなたはさっき崖から飛び降りる時に持っておられた落下傘《パラシュート》を持っておいででしょう」
「あっ。持っています、持っています」
「それを持って飛げるのです」
 と云いながら、王子は鉄の塔の絶頂の窓のところからお城の方を向いてこう叫びました。
「お父様、お母様、私がわるう御座いました。よけいなことをオシャベリして大層御心配をかけました。私はこれから姫と一所によその国へ行きます。けれどもこれから決してオシャベリはしません。本当に見たりきいたりしたことでも、よけいなことはお話しをしないようにいたしますから、どうぞ御安心下さいますように。さようなら、御機嫌よう」
 こう云ううちに王子は、塔の床の上に手を突いて、涙を流しながらお暇乞《いとまご》いをしました。
 オシャベリ姫もだまって涙をこぼしながら、手を突いてお暇乞いをしました。
 そうして二人は落下傘《パラシュート》の紐をしっかりと掴んで、塔の上から下を目がけて飛び降りました。
 二人の身体《
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