、その原因物と被害物体との距離にかなりの相違があったため、その結果である損傷程度に著しい相違を生じた――こう考えてはどうだろうか。つまりゼムリヤ号事件のときはその怪力源が相当遠くにあった。しかし駆逐艦D十五号の場合はずっと近くにあった。そう考えることはいけないだろうか」
 水戸の説は大胆極まるものであった。そうしてここに論ぜられたもの以外にも多くの欠点を有していた。しかし彼は敢えて同一原因説を唱え、そして一見無理と思われる解釈を試みたのだった。なぜ彼はそんな無理を強行するのであろうか。
「君の説は興味深い」
 ワーナー博士が突然口を開いたので、その周囲に集まっていた人々は愕いた。まさかそんな讃辞が博士より聞けようとは期待していなかったからである。だが水戸はひとり、恥《はずか》しそうに静かに微笑した。
「博士は水戸の説に賛成なさるんですか」
 ホーテンスは訊《き》いた。
「まだ賛成はしておらぬ」と博士は明らかに否定し「だが今の水戸の説により、わしは一つのヒントによって、わしは最近の機会に一つの冒険を決行するよ」
「冒険ですって」
 ホーテンスを始め皆は愕いた。水戸も愕いた一人だった。

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