この三平が薦《すす》めたものであって、どういうわけかサンノム老人を贔屓《ひいき》にしていた。
この家における目下の下宿人は、水戸の外《ほか》に、音楽家の高田圭介と音羽子の夫妻があり、それからソ連の商人でケノフスキーという人物も滞在していた。
水戸の計画した晩餐会は大成功であった。ドレゴが喜んだことは勿論のこと、ホーテンスもいつになくよく喋《しゃべ》った。三人の間には、盛んにコップの触れ合う儀礼が交換され、空《から》になった酒壜は殖えていった。ホーテンスはこの土地の名産であるところの一種の鱒《ます》の燻製《くんせい》をたいへんに褒めて食べた。
すっかりいい気持ちになったところで、話題は例の巨船ゼムリヤ号の発狂事件に入っていた。
水戸は、ドレゴがホーテンスが調査したことの詳細を知りたがっていると述べると、ホーテンスは、
「よろしい、ではこの好ましき仲間のためにもう一度それを述べよう、今日握った新しい事実も加えて……」
といって気軽に語り出した。
新鋭砕氷船
「水戸君には話しておいたことだが、あの怪汽船ゼムリヤ号はソ連船なんだ」
と、ホーテンスは語り出してドレゴの顔を見た
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