発狂事件”の第一報は、果して全世界に予期以上の一大衝撃を与えた。
この報道を受け取った新聞通信社の約半数は、この報道内容の常識逸脱ぶりを指摘して、報道者ドレゴの精神状態が正しいかどうかにつき疑問を持ち、報道をさしひかえた。これはこの事件が桁《けた》はずれの怪奇内容を持っているところから考えて、当然のことであったろうが、その代わりそういう新聞社は、遅くとも三十六時間後には非常な後悔に襲われると共に、睡りから覚めたように“巨船ゼムリヤ号発狂事件”について広い紙面を割《さ》かざるを得なかった。
世界各地の通信機関と調査団とが、ヘルナー山頂に続々と集まってきた。そういう人々の手によってやたらにキャンプが張られ、郵便所が出来、テレビジョンやラジオの放送塔が建てられた。それから簡易食堂や酒場や娯楽場までが出来て、あまり広くもない山頂一帯は、まだ火の手をおさめないゼムリヤ号を中心として、急設文化都市の出現に、もうキャンプ一戸分の余地も残さないようになってしまった。
どの通信社も、始めに派遣した団体のスケールでは、この大事件の報道には十分でないことが判った。そのことが判ると、彼らは本社へ向って、
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