の目をもって見た者でなければ到底信じられないであろう。このゼムリヤ号発狂の謎を、解き得る者が果たしてこの世界に一人でもいるであろうかと、疑わしく思う。もちろん本記者も決してその一人でないと、敢えて断言する。それほどこの事件は常識を超越しているのだ。だが本記者は、同業水戸記者の協力を得て、これより最大の努力を払って本事件の実相を掘りあて、刻々報道したいと思う”なるほど、これは上出来だ」
「ほめるのは後にして、大いにこき下ろして貰おう」
ドレゴは、洟《はな》をすすった。
「そうだなあ。敢えて、こき下ろすとすれば、この記事は長すぎる。前半だけで沢山だ。それに……」
「それに?」
「ねえ、ハリ。君は“ゼムリヤ号発狂事件”という名称が大いに気に入っているのだと思う。いや、全くのところ、僕も君の鋭い感覚と、そして大胆なるこの表現とに萬腔《まんこう》の敬意を表するものだ。しかし、欲をいうならば、この驚天動地の大怪奇事件を“ゼムリヤ号発狂事件”という名称で呼ぶには小さすぎると思うんだ」
「ほう。そのわけは……」
「つまり、ゼムリヤ号が発狂してこんな山頂にとびあがった――というよりも、もっとスケールの
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