行に移したばかりであった。
 が、潜水服を通じて、彼の五体に伝わって来る強い振動は、決して愉快なものではなく、彼はもうすこしで下痢が起こるような気がしたほどである。
 やがて振動はぴたりと熄《や》んだ。
「ほう、助かった!」
 誰も皆が、そう思ったに違いない。が軟泥は濛々《もうもう》とあたりを閉じ籠め、視界は全く利かず、生きた気持もなかった。
 と、突然水戸は背後にがんがんと連続的な衝撃を受け、身体がくるくると回転を始めた。彼の手が空間で石のようなものに触れたが、思わず手を握ると、手の中ではたはた動くものがあったので、彼は背後から魚群に突当られたことを諒解した。
 くるくるくると水戸の身体は転がって行く。何処とも行方は知らずに……。
 幸いにも、やがて身体が転がるのは停った。彼は疲れ切ってしばらく寝たまま休んでいた。目は開いてはいられず、動悸がはげしく打って、重病人になったような気がしてならなかった彼はゴム管を咥《くわ》えて、水を吸う元気さえなかった。
 そのような困難のうちに、時間が過ぎた。十分間だか、三十分だか、それとも一時間だかも分らなかった。突然彼は瞼の下に痛いほどな眩しい光を
前へ 次へ
全184ページ中106ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
丘 丘十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング