瞭に片附くではないか、それをしないであのような謂《い》い方《かた》の釈明を採用したのは一体どういう訳だろうかね」
 そういって水戸記者は、静かにドレゴの面を見詰《みつ》めた。ドレゴはくすりと笑って、顔を右へ振った。
「おお、可愛想な東洋の哲学者よ、何故君はそんなに懐疑を恋人として楽しむのかね」
 それを聞いて水戸ははっと顔を硬くした。が、すぐさま元の何気ない表情に戻って、
「これは哲学ではない、事件真相の探究だ。悪くいっても推理遊戯の程度さ」
 水戸は軽く笑って、冷たいコーヒーを飲み干した。
「そうかねぇ、それにしてもあの事件の真相だが、原子爆弾の実験説を支持するとして此際《このさい》僕等はどの国へ嫌疑を向けるべきだろうかね、もちろんアメリカとソ連は吟味ずみで、その埒外《らちがい》だ。そこで僕は今、その嫌疑を……」
「待ち給え!」と水戸は小さく叫んだ。
「この事件は原子爆弾には無関係だよ。何故そういうか。これは現在の僕の力では十分に確かめるわけに行かなくて遺憾ではあるが、とにかくこの事件は従来地球上で信じられている法則を破っている点に注目したい」
「すると結局かねて君の自慢の命名、“地球発狂事件”に収斂《しゅうれん》するわけじゃないか。抑々《そもそも》どこを捉えて本事件を“地球発狂”というか、ということになる」
「真面目な話だが、僕は思うのに、この事件を解くには、ヘルナー山頂のゼムリヤ号にたかっていたのでは駄目で、寧《むし》ろ大西洋の海底全域を探す方が早いと思う」
「はははは、大きなことを云うぞ、君は。おい水戸、誰がそんなことを実行に移すだろうか。大西洋は広く且つ深いのだ。全域に亙って探すということになれば一年懸るか二年懸るか分らない」
「いや、それには探《さが》し様《よう》があるのだ。普通のやり方では勿論駄目だが僕の考えている方法でやるなら四週間位で結果が出ると思う」
「ふふふふ、すごい法螺《ほら》を吹くぜ、君は」
 と二人が盛んに論じ合っている卓子《テーブル》へ、入口から入って来た若い男がつかつかと歩み寄った。
「おう、ドレゴ君に水戸君」
「やあホーテンス君だよ」
「へえ、そうかね、何事だい」
「一つの機会が、今君達の前にある。どうかね、これからワーナー博士の調査団に加わって一週間ばかり船旅する気はないか」
「ワーナー博士って、あの原子核エネルギーの権威であるワ
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