なかったであろう。ゼムリヤ号は、とにかく或る巨大な衝撃に耐えたばかりか、その巨力に跳ね飛ばされて実に七十|哩《マイル》を越える長距離を飛翔し、ヘルナー山に激突したのであるが、既に知られるとおり船形も殆んど崩れず、世界人の想像に絶する耐力を示した。しかしこの事件は、まだ真の答が出ていない。というわけは、わがゼムリヤ号に作用した巨大なる外力が毎平方|糎《センチ》に幾巨万|瓦《グラム》の圧力であったかについて詳細を知ることが出来ないために、われらの知らんと欲する答はまだ出ていないのだ。余はその巨大なる外力の数値を何とかして得たいと思って努力したが、それは不成功に終った。その不成功の原因の一つは、わが国に対する妥当でない猜疑心《さいぎしん》によるものである。しかし余の現在における希望は、もはやそういう問題をどうのこうのと論ずるにあらずして、われらはわれらの仕事に更に熱中することにある。具体的にいえば、更に強力なる耐圧船を建造することにある。われらの技術は、まだ世界人の知識にないほど進んでいるのだ。今日われらの売出そうとする砕氷船の如きは、もはやわれらがその技術を秘密の埒内《らちない》に停めて置かなければならないようなそんな特殊なものではなくなったのだ。われらは今後も続々とわれらの技術作品を公開する考えである。ただ一言したいのは、われらがわれらの考えで研究し設計し試作し実験するものに対して、世界人が常に理解ある態度を持つべきであるということだ。われらには、われらにとって特に興味のある問題、そして特に切実なる要求に基づく問題があるのだ。研究は自由に行わるべきであると思う。以上述べた余の信念により、貴君は余に協力されんことを切に希望する。わがヤクーツク造船所の販売代理権を極めて好条件で貴君の手に委ねることにつき、余は用意がある。しかして余はその交換条件として、次のことを貴殿に依嘱したい。それは外でもない。わがゼムリヤ号に働きかけたる巨大なる外力に関する出来るだけ詳細にして具体的なる報告を提供されたいということだ。これは余およびヤクーツク造船所が、さきに記したる答を算出したいためのものであり、それ以外に他意がない。貴君が、余のこの提案に承諾されることを切に希望する。余は貴君に十分信用せらるるの自信をもってこのあけすけな手紙を書いた。この提案が容れられないときは、余は貴君が余の如くあ
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