ういうといかにもこじつけ話のように聞えるであろう。いくら千太郎がお婿さまに化けても、顔馴染の警官や、元の仲間の者にあえば、ひとめでモニカの千太郎がうまく化けこんでいやがると気がつくと思うだろうが、なかなかそうはゆかない。今までは顔を見ただけでは全く千太郎と見わけのつかない万吉郎だった。つまり万吉郎なるお婿さまは、モニカの千太郎とは全く別な顔をもっていたのである。千太郎もいい男であつたが、万吉郎の顔は、さらにいい男ぶりであり、しかも顔形は全く別の種類に分類されてしかるべきものだった。
 それにも拘《かかわ》らず、万吉郎は千太郎の化けた人間に相違なかったのである。
 では、どういうところから、そういう不思議な顔形の違いが起ったのであろうか。その答は簡単である。ヒルミ夫人の特別研究室のうちで、千太郎の顔は新しく万吉郎の顔に修整されてしまったのである。それこそはヒルミ夫人の劃期的《かっきてき》なアルバイト、田内整形外科術の偉力によるものだった。
「ワタクシハ予《かね》テ世間ニ於テ人間ノ美ト醜トニヨル差別待遇ノ甚《はなは》ダシイノニ大ナル軽蔑ヲ抱イテイタ」とヒルミ夫人はその論文に記《しる》してい
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