などしたものだが、そのうち繃帯がとれそうになったとき、千太郎は病院から脱走してしまった。
 ヒルミ夫人の届出でに、、警察では愕いて駈けつけたが、厳重だといっても病院のことだから抜けだす道はいくらもある。まあ仕方がないということになった。
 そのうちに、また元の古巣へたちまわるにちがいないから、そのときに逮捕できるだろうと、警察では案外落ちついていた。
 ところがその後《のち》千太郎は、すこしも元《もと》の古巣へ姿をあらわさなかった。警察でも不審をもち、東京の地から草鞋《わらじ》をはいて地方へ出たのかと思って、それぞれに問いあわせてみたが、千太郎はどこにも草鞋をぬいでいなかった。そんなわけで、モニカの千太郎は愛用のハーモニカ一|挺《ちょう》とともに失踪人の仲間に入ってしまった。
 ヒルミ夫人が結婚生活に入ったのが、それから二ヶ月経った後のことだった。
 万吉郎という五つも年齢下《としした》の男を婿に迎えたわけだが、ヒルミ夫人の見染めただけあって、人形のように顔形のととのった美男子だった。
 いずくんぞ知らんというやつで、この万吉郎なるお婿さまこそ実はモニカの千太郎であったのである。
 そ
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