は隠すことができないであろう。そしてもし夫万吉郎を今日甦らせて置けば、二十年後には四十五歳の老爺と化すであろうから、同じように精力の甚だしい衰弱を来《きた》すことは必然である。おお四十五歳の老爺になった夫! それを想像すると、妾はすっかり憂鬱になってしまう。
 夫はなるべく若々しいのがいい。ことに妾自身の気力が衰える頃になって、隆々《りゅうりゅう》たる夫を持っていることが、どんなにか健康のためにいい薬になるかしれないのだ。妾はそこに気がついた。
 愛する夫万吉郎は、今から二十年間、この冷蔵鞄のなかに凍らせて置こう。
 妾が五十歳になったときに、丁度その半分の年齢にあたる二十五歳の万吉郎を再生させるのだ。
 そして尚それまでに、妾は十分に研究をつんで、男の心をしっかり捕えて放さないと云う医学的手段を考究して置くつもりだ。なにごとも二十年あれば、たっぷりであろう。
 おおわが愛する夫よ。では安らかに、これから二十年を冷蔵鞄のなかに睡れ!

「これで私の話はおしまいなんです。どうです、お気に召しましたか、さっき靄のなかの街頭に御覧になった『ヒルミ夫人の冷蔵鞄』の解説は――」
 そういって若い
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