り解体してしまった。夫は最後まで、今自分が解体されるなどとは思っていなかったようだ。
妾の激しく知りたいと思っていたことは、夫として傍に起き伏している一個の男性が、果たして真《まこと》の万吉郎その人であるかどうかを確めたかったのである。だから妾は、夫の躰をすっかりバラバラに解剖してしまったのだ。
剖検《ぼうけん》したところによると、それは全く、真の夫万吉郎の躰に相違なかった。いや、万吉郎の躰に相違ないと思うという方がよいかもしれない。いやいやそんな曖昧《あいまい》な云い方はない。それは万吉郎その人以外の何者でもあり得ないのだ。
なぜなれば、その男性の身体は常日頃、妾がかねて確めて置いた夫の特徴を悉《ことごと》く備えていたからである。たとえば内臓にしても、左肺門に病竈《びょうそう》のあることや、胃が五センチも下に垂れ下っていることなどを確めた。(夫の外にも同じ顔の同じ年頃の男で、左肺門に病竈があり、胃が五センチも下垂している人があったとしたら、どうであろう? いやそんな人間があろう筈がない。偶然ならば有り得ないこともないが、偶然とは結局有り得ないことなのである。妾はそんな偶然なんて
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