新聞とラディオの報道を気にする習慣になっていた。それを見ていると CORRIDAS DE TOROS という標題が目に留まった。それが闘牛のことだということぐらいは知っていた。土曜日(八月二十日)からサン・セバスティアンで始まる。仕止役《マタドル》はオルテガとベルモンテ、云々。まだいろいろ書いてあったけれども細かいことはわからなかった。
食卓でその話が出ると、主人《あるじ》の矢野公使はエスパーニャの事なら何でも知っていて、オルテガというのは老ベルモンテと並んで当代一流の闘牛士であるが、老ベルモンテは此の間イタリアからチアノ伯が訪問した時、老躯を提げて唯一人で猛牛に立ち向い、すべての役を一人で演じて仕止めた。今度サン・セバスティアンに来るベルモンテはその息子で、若くて色男で人気者だ、ということだった。闘牛士《トレロス》はエスパーニャでは一種の国民的偶像であり、その人気と収入は大したもので(イバーニェスに拠ると、年収二十万ペセタから、三十万ペセタに上るそうだ)、へたな国務長官などの及ぶ所ではなく、演技は冬を除いて一年中行われ、本来セヴィーヤが本場で、其処で復活祭の季節に始まり、十一月まで
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