も、別にうれしくもなんともなくなつてゐた。人間的な感情とか思慮とかを働かすべく私はあまりに疲れきつてゐた。
プラットフォームの上に避難列車の吐き出した人間の數は非常な數だつた。そこには高い柱の頂上から降りそそぐ淡紫色の夢のやうな電燈の光が此の世のものとも思へないやうな影を落して無數の亡者どもの蠢《うごめ》きを描き出してゐたが、ふと氣がつくと、私自身もその亡者どもの群に交り、重い二つのスーツ・ケイスを提げて立つてゐた。
どこへ行くのか? どうすればよいのか? なんにも知らないで、ただふらふらと歩み出してゐた。……
たしかに一箇の夢遊病者の影像だつたに相違ない。
八 邂逅
ボルドーのサン・ヂャン停車場のプラットフォームは、階段を下りて、地下道を通つて、また階段を上つて改札口に出るやうにできてゐる。長さにしても大した距離ではないのだが、その晩は非常に長く感じた。私は二つのスーツ・ケイスを兩手に一つづつ提げて――それも大した重さではないのだが――十メートルも行つては休み休みしなければならなかつた。私だけではない。私の二三歩先を行つてる二人の大の男も私と同じくらゐ歩いて
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