も南東へ約六十五キロ進出するから、それだけ「ベルンのアルプス」に接近するわけで、インターラーケンは事実上その登山口である。
インターラーケンへ行く汽車の興味は、アルプスの山々が刻一刻と近づいて、線路の屈曲と共にその山容を変えることの珍らしさに係っている。
ベルンを離れて三十分もたつかたたない頃、ミュンシンゲンあたりで、右手の窓にニーセンとシュトックホルンが顔をのぞけ、左手の窓にメンヒとユンクフラウが眺められる。アイガーも少し遠くではあるが眺められる。ニーセンは「ベルンのアルプス」の歩哨を承ってるような山で、位置も私たちの通り過ぎるすぐ前にあり、独りで淋しそうにしてるが、形は金字塔型のなかなか形のよい山だ。上の方は雪で白く、下の方はまだらだった。
テューンという町には古い城砦があった。そこから湖水が展開して、その縁を汽車は通って行く。湖水の名前もテューン(テューネル・ゼー)で、幅は三キロ、長さは十九キロ以上あるそうだ。湖畔にはもう春が来て、杏子《あんず》や梨の花ざかりで、草原にはたんぽぽが群生していた。シュピーツを過ぎると、右手は丁度ニーセンの真下で、さっき見た時と形が変って、非常
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