うことだった。しかし、すぐ気がついて見ると、ベルンに来てるのだから、そうして、ベルンから南東を展望してるのだから、いうまでもなくこれは「ベルンのアルプス」と呼ばれる中央山系でなければならない。そうだとすると、ユンクフラウ(乙女)があの連峰の中に交ってる筈だ。私たちがこれから訪ねて行って、明後日はそれに登ろうと計画してるユンクフラウが。
こんなに早くユンクフラウに出逢おうとは思わなかった。つい一二時間前私たちはドイツを旅行していた。そうして、国境を越えて今スウィスに入ったばかりだった。入って見ると、ユンクフラウが待っていたのだ。少年の頃からいかにしばしばそれについて読んだことか、聞いたことか! その親愛なユンクフラウが待っていたのだ。
私は少年のようにあせって連峰の中から早くそれを選み出したかった。丁度ボイが入って来たので、尋ねると、彼は連峰のまん中あたりに一きわ大きく逞ましく根を張った山を指ざして、あれがそうですと答え、なお次々におもだった峰角の名前を数え立てた。私はパノラマ図録と首っ引きで一つ一つそれ等を跡づけて行った。
まずユンクフラウ(四一六六米)から左へ辿ると、すぐ隣りの首を少しかしげたのがメンヒ(坊主)(四一〇五米)、その次の足を踏みはだけたのがアイガー(三九七四米)、やや低いのを二つほど飛ばして、鎗のように聳え立ったのが此の山系第一の俊峰フィンステラールホルン(四二七五米)、その先に多くの群小を見下して同じような尖峰が二つ重なり合ってるのが大《グロス》シュレックホルン(四〇八六米)と大《グロス》ラウテラールホルン(四〇四三米)、小さいのはまた飛ばして、ベルクリシュトック(三六五七米)とヴェッターホルン(三七〇三米)、後者の肩からのぞいてるのがハンゲンドグレッチェルホルン(三二九四米)、次がヴェルホルン(三一九六米)、シュヴァルツホルン(二九三〇米)、ヴィルトゲルスト(二八九二米)、次に近いから大きく見えるがそれほど高くないホーガント(二一九九米)。その左の裾に小さく見えるのは遠いからで高さは相当なディヒターホルン(三三八九米)等、等。
次にユンクフラウから右に数えて、同じような腰強いのがグレッチャーホルン(三九八二米)、その隣りに塀立してるのがエプネフリュー(三九六四米)とアレッチュホルン(四一八二米)、それから低いのを抜かして、ミッタハホルン(
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