トニウスとオクタヴィアヌスの双方に取り入ってユダヤ王の名義を貰い出し、前三七年(三十七歳)にはエルサレムを手に入れ、以後三十四年間、都城を改修して其処に住んでいた。勢力絶倫で奸智に長《た》け、天下の形勢の推移にも見通しが利き、エジプトにもローマにも秋波を送っていたが、ローマが世界を支配するだろうことをば逸早く予感していた。しかし、アントニウスとオクタヴィアヌスを両天秤にかけて操縦することに於いては多少見当を誤り、アントニウスの方に偏しすぎたため、アクティウムの決戦後は一時不安を感じていた。けれども巧みにオクタヴィアヌス(アウグストゥス)の前で尻尾を振り、終に絶大の信頼を得ることに成功し、その関係を利用してアジアの地盤を鞏固にした。
 彼は、ローマ人がギリシア的な生活様式にあこがれたように、ローマ的な生活様式にあこがれ、自分もしばしばローマへ行き、二人の上の息子をば長くローマに留学させていた。都市を改造し、大建築を起したのもローマに傚ってであった。例えば、サマリアを改造してセバステと改名したり、ストラトの塔と呼ばれる海角に大規模の築港をしたり、改造したエルサレムの町に大劇場を建てたり、そ
前へ 次へ
全22ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
野上 豊一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング