代ギリシア人の功績に優るとも劣らないほど偉大なものだったが、それはもはや今日地球上に存在しない。血族的にその子孫といわれる者は残っていても、文化史的にすでに無価値な人間である。丁度ギリシアにギリシア人と称する者は生きているけれども、古代の輝かしい文化の生産者だったギリシア人とは文化史的に殆んど何等のつながりをも持たないと同じように。その意味で今日のエジプトは、三千年乃至五千年前のすばらしい文化の遺跡となってしまい、その文化の直接の後継者がいなくなったがらんどうの空地のようなものである。その空地には古代エジプトの文化と無関係の侵略者が押し入り、断えず争ったりいじめ合ったりして来たのである。
 地理的・政治的にいうと、近代エジプトの人口を構成している人種はざっと十種を数えることができる。まず古代エジプト以来の遺族と認められる者が二種ある。その一は(一)フェラヒン(農民)と呼ばれ、エジプト人の人口の大部分を占め、すべて耕作者で、主としてニルの上流地方に居住している。人種学的にはコプト人と共にハム種族の直系と認められ、謂わゆる「エジプト人」だが、政治的には全く無能である。女は結婚しても年とって
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