の巨像が今一つ残っている。今いった野天の巨像から西の方へサッカラ道を少し行くと、棕櫚の木の更に夥しく茂った間に泥土の家が建っていて、家の中一ぱいに巨像が横たえられてある。巨像の倒れてる上を後から家で包んで、入場料四ピアストルを徴収するような設備にしたのであろう。長さ四十二|呎《フィート》のひどく堅い一本石の石灰石の立像で、殊にその顔の晴れやかな美しさは無類である。少し吊り上った口角の素樸《アーケイク》な微笑も印象的であれば、王冠の前部のコブラの形もうまい。非常に技術のすぐれた彫像である。此の巨像は今にカイロに運ばれてラメセス広場に立てられる計画があるというが、その時は恐らくカイロにあるすべての物を圧倒するほどに異彩を放つであろう。
底本:「世界紀行文学全集 第十六巻 ギリシア、エジプト、アフリカ編」修道社
1959(昭和34)年6月20日発行
底本の親本:「西洋見學」日本評論社
1941(昭和16)年9月10日発行
入力:門田裕志
校正:松永正敏
2007年8月9日作成
青空文庫作成ファイル:
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