も決して肥大せず、濃い睫毛が蔭深く密生して切れの長い目を際立たせるのが特長であり、男は数千年来の習慣で皆頭を剃りこくっている。色は両性とも相当に黒く、顴骨が突起して唇が相当に厚ぼったく、見たところいかにも賤民らしく、事実、今日に於いても賤民である。古来頻繁な外敵侵入にもかかわらず、彼等に比較的純血が保たれてるのは、早婚(女は十歳から十二歳で婚姻する)が主な理由だとされている。古代エジプト人の遺族の今一つは(二)コプト人で、早くからキリスト教化され、今日に至るまで世界のどの種族より『福音書』を厳正に信じ、それに依って生活してるといわれるだけあって、血の純粋もよく保たれているという。皮膚の色はあまり黒くなく、骨格も比較的きゃしゃであり、技能は精密な細工物にすぐれ、多くは都市に居住している。それもルクソルとかアスアンとかの上流地方の都市に居住する者が大部分で、カイロにもいるようだが、要するに小市民で、活力の範囲は制限されている。
 以上は古来土着の「エジプト人」であるが、侵入者としては、(三)ベドゥインというのがある。元来沙漠に住むアラビア人で、その中にもいろんな種類があるが、エジプトに流れ込んでるベドゥインは概して温良で、多くは遊牧的生活者である。皮膚は青銅色に近く、頭髪は濃く、体格はやや瘠せ気味で、労働に適しそうで、そのくせ怠け者が多く、カイロ付近にもいて、ギゼ[#「ギゼ」は底本では「ギセ」]のピラミッドの胴内に入ると必ずベドゥインに案内されるが、ひどい体臭に悩まされる。次には(四)都市居住のアラビア人がある。エジプトの到る所にアラビア語が一番多く用いられてる事によってもその勢力は想見される。職業としては、上は官吏・商人・医師・技師・弁護士等から下は召使・御者等に至るまで、その生活様式は広汎に亘り、近時は科学芸術方面にも進出する者が多いとのことで、従って回教《イズラム》の信仰も彼等の間では弛んで来たそうだ。私たちは丁度ラマダン(回教の斎戒断食の月)の期間にエジプトを見て廻ったが、そういえばその斎戒なるものもかなり形式化してるように見受けられた。次には(五)トルコ人。これは昔の支配時代の盛んな勢力にも似ず、今では甚だ微力で、官吏・軍人・商人の中に少数交っているが、トルコ語がエジプトでは殆んど通用しないのを以っても、勢力のなくなってることが想見される。次には(六)シュリア
前へ 次へ
全15ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
野上 豊一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング