る。或ひは役者に移動が生じたり(例へば「老松《おいまつ》」に「紅梅殿《こうばいどの》」といふ小書が附くと常は登場しない天女のツレが登場するとか、「絵馬《ゑま》」に「女体《によたい》」といふ小書が附くと、常は力神をシテとする流儀がそれをツレに廻はして、女神をシテに立てるとか)、或ひは舞が変つたり(例へば「老松」の「紅梅殿」でいふならば、真《しん》ノ序《じよ》ノ舞《まひ》は常はシテが舞ふのであるがそれをツレの天女に譲り、シテはイロヘ掛《がかり》の短い舞をまふだけになつたり、また「絵馬」の「女体」では、神舞を急の位でシテの女神が舞ひ、神楽《かぐら》をツレの天女が舞ひ、急《きふ》ノ舞《まひ》をツレの力神が舞ふことになつたり)、或ひはそれに従つて囃子がちがつて来たり、或ひは役者の扮装が変つたり、或ひは常は出さない作物を出したり、或ひは詞章が省略されたり、別の詞章を挿入したり、順序をちがへたり、更に或ひは演出の強調の要点が変つたりもする。これは五百年も六百年もの間、いつも同じ物を同じ行き方で演出するのに倦きて新奇を求めようとする心も手伝つてであらうが、それには役者の創意がなければ企て得ない仕事であ
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