暮れても見張られて居り、語る者とては一人もない。そうした悲しい昼と夜が五十三日続いた。そうして遂に彼女は呼び出された。

      四

 呼び出されたのは同じ構内の今の民事第一法廷で、当時はそこで革命裁判が開かれ、冷酷なフーキエ・タンヴィルがてきぱきと矢継早やに判決を下していた。マリ・アントワネットは十月十四日そこに「未亡人カペ」として召喚され、二日二夜に亘る辛辣な審問の前に、臆するところもなく立ちつづけ、簡明直截な答え方をしたり、或いは答えることを見合せたりした。その態度のひどく威厳を具えて立派であったことは多くの史家の等しく賞讃するところで、若かった頃の、国民に眉をひそめしめた頃の彼女とは別人の如くであった。その時彼女は三十八歳、革命の動乱が彼女の性格を鍛え上げ、天晴れの女丈夫に仕上げたのであった。
 十月十六日未明、怪奇を極めた審問が終ると、フーキエ・タンヴィルは、何か言うことがあるかと聞いた。マリ・アントワネットは首を振った。陰惨な法廷の燭火は燃え尽して消えようとしていた。彼女の生命も消えようとしていた、彼女は予定の如く死刑を宣告された。彼女は無言のまま法廷を出た。
 午前
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