んな小っぽけな店屋の片隅から出たかということである。シェイクスピアの家は代々百姓だったが、親爺さんのジョンは生れた村を見捨てて近くのストラトフォード・オン・エイヴォン(今日は人口一万余の小都市だがその頃は人口二千ほどの市場町《いちばまち》だった)に出て商売を始め、雑穀・毛物・肉類・皮類などで儲けて此の家を買い取り、一時は町会議員《オルダマン》を勤めて MR. の敬称を持つ身分にまでなっていたが、その後商売に失敗し借金に苦しむようになった。けれども頑強に此の家だけは手放さなかった。ウィリアムは四男四女の三番目で長男だったので、グランマー・スクールも中途でよして店の手伝いをさせられた。もちろんそういった家庭に後日の詩才を育て上げてくれるべきものがあっただろうとは思えない。それにもかかわらず、彼はカーライルをして全英帝国よりも重く評価せしめた詩才を作り上げた。それは家庭でも学校の教室でもなく、世間で鍛え上げたのだった。すべての人がシェイクスピアの真似をしたところで始まらないけれども、そのことは今日も考えて見なければならない問題である。
そんなことを話し合いながら、私たちは裏の庭園を一めぐり
前へ
次へ
全31ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
野上 豊一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング