てある。何にするものかちょっとわからなかったが、婆さんの説明によると、子供がその横木につかまって押すと柱が廻るようになっている。しかしウィリがそれにつかまって独り遊びをしていたとは婆さんは断言しなかった。今一つは棚の上に載せてある古風な|鼠おとし《マウストラプ》で、二尺に一尺ほどの箱に簡単な枠《わく》を立て、枠の心棒から箱の片側の横木に糸が張ってある。婆さんはそれを指ざして、『ハムレット』に使ったのはこれです、といった。劇中劇の場面で、王が此の芝居は何という外題だと聞くと、ハムレットは The Mouse−trap(鼠おとし)と答える。はて、どうして? たとえごと。と自問自答の言葉がつづく。王の良心を罠にかけて見ようとするハムレットの魂胆を、シェイクスピアが子供の頃台所の片隅で見覚えていた此の捕鼠器から思いついたものだとすれば、たとえごと[#「たとえごと」に傍点]という所に人のあまり使わない tropically なんて変な言葉を使った心理にも、その副詞は trope という名詞から来て、figuratively と同義語になったもので、trope は元来ギリシア語の tropos(転
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