島よりもずっと手前に、熔岩流の流れ込んだ小さい入江があった。今はオニナの入江と呼ばれているそうだが、古代からの言い伝えでは、オデュセウスが舟を着けた処だということになっている。それは、タオルミーナの手前の、昔のナクソスの遺跡を越した所にジャルディニの入江というのがあって、一八六〇年八月十八日にガリバルディの一行がカラブリアを指して船出した所だと教えられたのと同様、私にはそれも真実に思われた。一つは歴史の真実であるに対し、他は詩の真実であるというだけの差違である。
[#地から1字上げ](昭和十三年―十四年)



底本:「世界紀行文学全集 第六巻 イタリア、スイス編」修道社
   1959(昭和34)年10月20日発行
底本の親本:「西洋見學」日本評論社
   1941(昭和16)年9月10日発行
入力:門田裕志
校正:松永正敏
2007年8月9日作成
青空文庫作成ファイル:
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