争の幕は切って落され、ヴェルダンを古戦場[#「古戦場」に傍点]の如く感じる気持は一層強くなった。
 丁度パリに来ていられた姉崎先生をお誘いした時、先生は一九一八年の停戦直後にヴェルダンを訪問されたきりなので、二十年後のヴェルダンがいかに変化しているかに興昧を持っていられるようだった。私たちはヴェルダンは初めてで、ドイツに行っても、イタリアに行っても、フランスでも、イギリスでも、何となしに底気味のわるい空気が漂っていて、いつ戦雲が捲き起らないとも知れなかったので、不安な未来を予想しながら二十年前の世界悲劇の痕迹を踏査することに少からぬ興味を持った。
 その日、朝早く、自動車で出かけ、夜に入ってパリに帰りついたのだが、帰りにランスとソアッソンの寺を見ようという計画を立てていたので、ヴェルダンには小半日きりいなかった。それでも自由のきく車で見て廻れたおかげで、遊覧バスなどで見るよりはゆっくり見られた。
 パリを出て東へ一直線に駈けらせると三十分ほどでモーの町を通り過ぎた。マルヌ河に沿うた古い町で、パリに供給する小麦・チーズ・卵・家禽・野菜などの多くは此処から運ばれると聞いていたが、通りすが
前へ 次へ
全17ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
野上 豊一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング