かった方が興味がある。同じドイツの都市にしても、ハイデルベルヒとかフランクフルト・アム・マインとかニュルンベルヒとかになると、十分に旅行者を楽しませるものがあるけれども。
オランダも大体において旅行者を楽しませるものを持っている。殊に私たちの行った時は、春が酣《たけな》わになりかけて、気候はよく、木木は芽を吹き、花は蕾を破って、どこを見ても美しく、ハーグも、ライデンも、ユトレヒトも皆美しかったが、殊にハーグからライデンへドライブした時に通った沿道の花畠の美しさは決して他国では見られないものだった。それはテューリップ畠と、アネモネ畠でひろびろとした耕地の間に途方もなく大きな毛氈を敷きひろげたように、しかも、このテューリップ畠は赤は赤一色、黄は黄一色、白は白一色で、中に紫はアネモネの花畠だった。このテューリップの大量栽培は、花は剪《き》ってロンドン、パリ、ベルリン等へ出すが、目的は球根をアメリカへ輸出するためである。
しかし、テューリップもアネモネも美しければ、バタ・チーズ・野菜・卵等の産出も多量であれば、また風車もおもしろければ、運河・堤防も珍らしかったが、それ等にもまして私にいつまでも忘られない印象を与えたものはオランダの絵画であった。殊にレンブラントの作品であった。
三
レンブラントとかフランス・ハルスとかヤン・ステーンとかを除けば、正直にいうと、私はオランダの絵画についてあまり多く知らなかった。ロンドンの博物館で初めて多くの実物に接し、後ではパリでもベルリンでもミュンヒェンでも数多くオランダの画を見る機会を持ったが、しかし、最も系統的に且つしみじみとそれ等に親しむことのできたのはオランダの博物館であった。殊にハーグのマウリツハウスとアムステルダムの国立博物館《リイクスムゼウム》であった。
一般的に見て、オランダの画は目立って手堅い写実の基礎の上で発達している。一方では風景・静物などの地味な画題をいかにも細かく精密に写生してるかと思うと、また一方では風俗画ともいうべき種類のものを多少のヒューマーを交えながら巧みに描き出している。そうして、概して小さい作品が多く、中には微細画《ミニアチャー》といえるような作品も少くない。そういった行き方が流行したというのも、主として国民性と国情に因るものであって、オランダがヨーロッパの北に偏したテュートン民族の国
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