て、ある意味ではオランダ的でないといってもよいだろう。
 オランダ的特色というのは、平たい土地に運河が縦横に網を張って、堤防が到る所に築かれ、運河には舟が泛び、町ならば吊橋やはね橋が架けられ、田舎ならばその傍で風車がくるくる廻ってなければならない。そうして、家屋は(都会には例外として六、七階の高層建築も見られるが)概して低く小さく、しかし田舎は田舎なみに飾り立てて、清潔に掃除してあり、風俗は(都会では一般ヨーロッパとあまり変らないけれども)地方では昔ながらの野趣をおびた絵画的の服装が保存されてある。即ち、女は白い蛾の翅のような帽子をかぶり、肩から胸へかけてレイスなどの付いたさまざまな形のきれ[#「きれ」に傍点]を掛けて、スカートの上には赤とか青とか茶とか色とりどりの縞の前垂みたいなものを後《うしろ》へ廻してまとい、女も男も足には大きな木履を穿く。しかし、それ等は都市では今日見られない。今日都市に多く見られるのは自転車で、ハーグでは市民も官吏も自転車が多く、大臣も女王さえも自転車を乗り廻すと聞いた。自転車の数が五十万あるというから、人口の約一〇パーセントは自転車に乗るわけである。土地が平坦なのと国の狭いのがそれに都合がよいからに相違ない。
 一体オランダほど風土が国民の生活に影響を及ぼしてる国はヨーロッパのどこにも見出せない。国内の或る部分では、地面が海面よりも低いので、堤防が到る所に築かれてあることは既に述べたが、その堤防の上には楊柳の枝などをかぶせて泥で固め、それを数年ごとに取り替えねばならないので、その費用だけに年額千五六百万フロリンを支出するそうだ。そういった堤防を必要とする土地が全国の面積の約半分に及んでるということで、オランダの古い諺に「神は海を造った。われわれは陸を造った」というのも、十世紀以来のそういった土木的努力を考えさせるものでなければならぬ。土地が国民の生活を変更したと共に、国民の生活も土地を変更させないでは措かなかった一つの例でそれはある。今一つの例は運河で、これは道路の代用として、また下水の代用として、また都市ではしばしば塀がこいの代用として使用され、都市にも田舎にも無数に開鑿されてあるが、大きいのになると巾十間深さ一間ぐらいのもある。そうして、田舎では、運河の付近には大きな風車が幾つも立っていて、製粉・製材・製紙等に利用されるほかに、低地の
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