めつたにしなかつた。三年前友人に誘はれて朝鮮へ行つたぐらゐのものである。それもかうまとめて讀み返して見ると、自然に對する興味よりも人間に對する興味の方が主になつて居ることに氣づき、自分ながらよくよく俗に生れついたことに感心してゐる。俗も大俗であればまた以つておもしろいのであるが、私のは俗も甚だ貧弱な俗で、人間の興味といつても、ややもすれば囘顧的になりがちで、現代の文化の批判といつたやうな態度よりも、過去の文化に對する憧憬といつたやうな形になりがちであることに氣づく。これは私事であるが、かうまとめて見て些か自ら反省するところがあるので書き留めて置く。
 此の『草衣集』は去年の夏北輕井澤の高原に轉地中まとめたものであつたが、まとめて居る間に、支那事變が起り、南京陷落の前後に校了となつて、今年の正月には本になる筈であつたのが、その本屋にも事變が起つて、相模書房の小林美一君の厚意でやつと本になることとなつた。此の「はしがき」を書いて居る時、新聞はしきりに除州の攻略の切迫を傳へて居る。恐らくこれが今度の事變の結末の大戰であらうとも傳へられてゐる。もしさうだとすると、『草衣集』は事變の全期間を要し
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