それ滅びざるものも滅びうるものも、みな愛によりてわれらの主の生みたまふ觀念の耀《かゞやき》にほかならず 五二―五四
そはかの活光《いくるひかり》、即ち己が源の光よりいでゝこれを離れずまたこれらと三一に結ばる愛を離れざるもの 五五―五七
自ら永遠《とこしへ》に一となりて殘りつゝ、その恩惠《めぐみ》によりて己が光線を、あたかも鏡に映《うつ》す如く、九の物に集むればなり 五八―六〇
さてこの光線こゝより降りて最も劣《おと》れる物に及ぶ、而《しか》してかく業《わざ》より業に移るに從ひ力愈※[#二の字点、1−2−22]弱く遂には只はかなき苟且《かりそめ》の物をのみ造るにいたる 六一―六三
苟且《かりそめ》の物とは※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》る諸天が種によりまたは種によらずして生ずる所の産物をいふ 六四―六六
またかゝる物の蝋とこの蝋を整ふるものとは一樣にあらず、されば觀念に印せられてその中に輝く光或ひは多く或ひは少し 六七―六九
是においてか類において同じ木も善果《よきみ》惡果《あしきみ》を結び、汝等もまた才を異にして生るゝにいたる 七〇―七二
蝋もし全く備はり、天の及ぼす力いとつよくば、印の光みなあらはれむ 七三―七五
されど自然は常に乏しき光を與ふ、即ちそのはたらくさまあたかも技《わざ》に精《くは》しけれど手の震ふ技術家の如し 七六―七八
もしそれ熱愛材をとゝのへ、第一の力の燦《あざや》かなる視力を印せば、物みな極めて完全ならむ 七九―八一
さればこそ土は往昔《そのかみ》生物の極めて完全なるに適《ふさ》はしく造られ、また處女《をとめ》は孕《みごも》りしなれ 八二―八四
是故に人たるものゝ性《さが》がこの二者《ふたり》の性の如くになれること先にもあらず後にもあらずと汝の思ふを我は好《よし》とす 八五―八七
さて我もしさらに説進まずば、汝はまづ、さらばかの者いかでその此類《たぐひ》を見ずやといはむ 八八―九〇
されど顯《あら》はれざる事の明らかに顯はれん爲、彼の何人なりしやを思へ、またその求めよといはれし時彼を動かして請《こ》はしめし原因《もと》を思へ 九一―九三
わがいへるところ朧《おぼろ》なりとも汝なほ定《さだ》かに知らむ、彼の王者なりし事を、またその知慧を求めしは即ち良王《よきわう》とならん爲にて
天上の動者《うごかすもの》の數を知らん爲にも、必然と偶然とが必然を造ることありや否《いな》やを知らん爲にも 九七―九九
第一の動《うごき》の有無《うむ》を知らん爲にも、はたまた一の直角なき三角形が半圓の内に造らるゝをうるや否やを知らん爲にもあらざりしを 一〇〇―一〇二
是故に汝もしさきにわがいへることゝ此事とを思ひみなば、わが謂《い》ふところの比類《たぐひ》なき智とは王者の深慮《ふかきおもんばかり》を指すをみむ 一〇三―一〇五
またもし明らかなる目を興りしといふ語《ことば》にむけなば、こは數多くして良者《よきもの》稀《まれ》なる王達にのみ關《かゝ》はるをみむ 一〇六―一〇八
かく別《わか》ちてわが言《ことば》を受けよ、さらばそは第一の父及びわれらの愛する者についての汝の信仰と並び立つべし 一〇九―一一一
汝この事をもて常に足の鉛とし、汝の見ざる然《しか》と否《いな》とにむかひては疲れし人の如く徐《しづか》に進め 一一二―一一四
肯《うべな》ふべき時にてもまたいなむべき時にても、彼と此とを別たずしてしかする者はいみじき愚者にほかならず 一一五―一一七
そは輕々しく事を斷ずれば誤り易《やす》く、情また尋《つ》いで智を絆《ほだ》すにいたればなり 一一八―一二〇
眞理を漁《あさ》りて、技《わざ》を有せざる者は、その歸るや出立つ時と状《さま》を異にす、豈《あに》空《むな》しく岸を離れ去るのみならんや 一二一―一二三
パルメニーデ、メリッソ、ブリッソ、そのほか行きつゝ行方《ゆくへ》を知らざりし多くの人々みな世にむかひて明かにこれが證《あかし》をなす 一二四―一二六
サベルリオ、アルリオ及びあたかも劒の如く聖書を映《うつ》してその直《なほ》き顏を歪《ゆが》めし愚者また然《しか》り 一二七―一二九
されば人々餘りに安んじて事を判じ、さながら畑《はた》にある穗をばその熟せざるさきに評價《ねぶみ》する人の如くなるなかれ 一三〇―一三二
そはわれ茨《いばら》が、冬の間は堅《かた》く恐ろしく見ゆれども、後その梢《こずゑ》に薔薇《しやうび》の花をいたゞくを見 一三三―一三五
また船が直《なほ》く疾《と》く海を渡りて航路《ふなぢ》を終へつゝ、遂に港の入口に沈むを見しことあればなり 一三六―一三八
ドンナ・ベルタもセル・マルティーノも、一人《ひとり》盜み一人物を獻《さゝ》ぐるを見て、神の審判《さばき》かれらにあらはると思ふ勿《なか》れ 一三九―一四一
恐らくは彼起き此倒るゝことあらむ。 一四二―一四四
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   第十四曲

圓《まる》き器《うつは》の中なる水、外《そと》または内《うち》より打たるれば、その波動中心より縁《ふち》にまたは縁より中心に及ぶ 一―三
トムマーゾのたふとき生命《いのち》默《もだ》しゝとき、この事たちまちわが心に浮べり 四―六
こは彼の言《ことば》と彼に續いて物言へるベアトリーチェの言とよりこれに似たる事生じゝによる、淑女曰ふ 七―九
いまひとつの眞理をばこの者求めて根に到らざるをえず、されど聲はもとより未だ思ひによりてさへこれを汝等にいはざるなり 一〇―一二
請《こ》ふ彼に告げよ、汝等靈體を飾る光は、今のごとくとこしへに汝等とともに殘るや否《いな》やを 一三―一五
またもし殘らば、請ふ告げよ、汝等が再び見ゆるにいたる時、その光いかにして汝等の目を害《そこな》はざるをうべきやを。 一六―一八
たとへば輪に舞ふ人々が、悦び増せば、これに促《うなが》され引かれつゝ、相共に聲を高うし、姿に樂しみを現はすごとく 一九―二一
かの二の聖なる圓は、急なるうや/\しき願ひをきゝて、その※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》るさまと妙《たへ》なる節《ふし》とに新なる悦びを現はせり 二二―二四
およそ人の天に生きんとて地に死ぬるを悲しむ者は、永劫の雨の爽《さわや》かなるを未だかしこに見ざる者なり 二五―二七
さてかの一と二と三、即ち永遠《とこしへ》に生き、かつとこしへに三と二と一にて治め、限られずして萬物を限り給ふものをば 二八―三〇
かの諸※[#二の字点、1−2−22]の靈いづれも三|度《たび》うたひたり、その妙《たへ》なる調《しらべ》はげにいかなる功徳の報《むくい》となすにも適《ふさ》はしかるべし 三一―三三
我また小き方《かた》の圓の中なる最《いと》神々しき光の中に一の柔かき聲を聞たり、マリアに語れる天使の聲もかくやありけむ 三四―三六
その答ふる所にいふ。天堂の樂しみ續くかぎり、我等の愛光を放ちてかゝる衣をわれらのまはりに現はさむ 三七―三九
その燦《あざや》かさは愛の強さに伴ひ、愛の強さは視力《みるちから》に伴ひ、しかして是またその功徳を超えて受くるところの恩惠《めぐみ》に準ず 四〇―四二
尊くせられ聖《きよ》められし肉再びわれらに着せらるゝ時、われらの身はその悉く備はるによりて、いよ/\めづべき物となるべし 四三―四五
是故に至上の善が我等にめぐむすべての光、われらに神を視るをえしむる光は増さむ 四六―四八
是においてか視力《みるちから》増し、これに燃《もや》さるゝ愛も増し、愛よりいづる光も増さむ 四九―五一
されど炭が焔を出し、しかして白熱をもてこれに勝ちつゝ己が姿をまもるごとく 五二―五四
この耀――今われらを包む――は、たえず地に被《おほ》はるゝ肉よりも、そのあらはるゝさま劣るべし 五五―五七
またかく大いなる光と雖、われらを疲れしむる能はじ、そは肉體の諸※[#二の字点、1−2−22]の機關強くして、我等を悦ばす力あるすべての物に堪《た》ふればなり。 五八―六〇
いと疾《と》くいちはやくかの歌の組二ながらアーメンといひ、死にたる體《からだ》をうるの願ひをあきらかに示すごとくなりき 六一―六三
またこの願ひは恐らくは彼等自らの爲のみならず、父母《ちゝはゝ》その他彼等が未だ不朽の焔とならざる先に愛しゝ者の爲なりしならむ 六四―六六
時に見よ、一樣に燦《あざや》かなる一の光あたりに現はれ、かしこにありし光のかなたにてさながら輝く天涯に似たりき 六七―六九
また日の暮初《くれそ》むる頃、新に天に現はれ出づるものありて、その見ゆるは眞《まこと》か否かわきがたきごとく 七〇―七二
我はかしこに多くの新しき靈ありて、かの二の輪の外《そと》に一の圓を造りゐたるを見きとおぼえぬ 七三―七五
あゝ聖靈の眞《まこと》の閃《きらめき》よ、その不意にしてかつ輝くこといかばかりなりけむ、わが目くらみて堪ふるをえざりき 七六―七八
されどベアトリーチェは、記憶の及ぶあたはざるまでいと美しくかつ微笑《ほゝゑ》みて見えしかば 七九―八一
わが目これより力を受けて再び自ら擧ぐるをえ、我はたゞわが淑女とともにいよいよ尊き救ひに移りゐたるを見たり 八二―八四
わがさらに高く昇れることを定かに知りしは、常よりも紅《あか》くみえし星の、燃ゆる笑ひによりてなりき 八五―八七
我わが心を盡し、萬人《よろづのひと》のひとしく用ゐる言葉にて、この新なる恩惠《めぐみ》に適《ふさ》はしき燔祭《はんさい》を神に獻《さゝ》げ 八八―九〇
しかして供物《くもつ》の火未だわが胸の中に盡きざるさきに、我はこの獻物《さゝげもの》の嘉納《かなふ》せられしことを知りたり 九一―九三
そは多くの輝二の光線の中にて我に現はれ、あゝかくかれらを飾るエリオスよとわがいへるほど燦《あざや》かにかつ赤かりければなり 九四―九六
たとへば銀河が、大小さま/″\の光を列《つら》ねて宇宙の兩極の間に白み、いと賢き者にさへ疑ひをいだかしむるごとく 九七―九九
かの光線は、星座となりつゝ、火星の深處《ふかみ》に、象限《しやうげん》相結びて圓の中に造るその貴き標識《しるし》をつくれり 一〇〇―一〇二
さて茲《こゝ》に到りてわが記憶才に勝つ、そはかの十字架の上にクリスト煌《かゞや》き給ひしかど我は適《ふさ》はしき譬《たと》へを得るをえざればなり 一〇三―一〇五
されど己が十字架をとりてクリストに從ふ者は、いつかかの光明の中に閃《ひら》めくクリストを見てわがかく省《はぶ》くを責めざるならむ 一〇六―一〇八
桁《けた》より桁にまた頂《いたゞき》と脚《あし》との間に諸※[#二の字点、1−2−22]の光動き、相會ふ時にも過ぐるときにもかれらは強くきらめけり 一〇九―一一一
己を護《まも》らんため智《さとり》と技《わざ》とをもて人々の作る陰を分けつゝをりふし條《すぢ》を引く光の中に、長き短き極微の物體 一一二―
或ひは直《なほ》く或ひは曲《ゆが》み、或ひは疾く或ひは遲く、たえずその容《かたち》を變へて動くさままたかくの如し ―一一七
また譬《たと》へば多くの絃《いと》にて調子《しらべ》を合せし琵琶《びわ》や琴が、節《ふし》を知らざる者にさへ、鼓音《ひくね》妙《たへ》にきこゆるごとく 一一八―一二〇
かしこに顯《あらは》れし諸※[#二の字点、1−2−22]の光より一のうるはしき音《おと》十字架の上にあつまり、歌を解《げ》しえざりし我もこれに心を奪はれき 一二一―一二三
されど我よくそが尊き讚美なるを知りたり、そは起《た》ちて勝てといふ詞、解せざれどなは聞く人に聞ゆる如く、我に聞えたればなり 一二四―一二六
わが愛これに燃やされしこといかばかりぞや、げに是時にいたるまで、かくうるはしき絆《きづな》をもて我を繋《つな》げるもの一だになし 一二七―一二九
恐らくはわがこの言《ことば》、かの美しき目(これを視ればわが願ひ安んず)の與ふる樂をかろんじ、餘りに輕率《かるはずみ》なりと見えむ 一三〇―一三二
されど人もし一切の美を捺《お》す諸※[#二の字点、1−2−22]の生くる印がその高きに從つて
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