四―六六
人々の入亂るゝことは、食に食を重ぬることの肉體における如くにて、常にこの邑《まち》の禍ひの始めなりき 六七―六九
盲《めしひ》の牡牛は盲の羔《こひつじ》よりも疾《と》く倒る、一《ひとつ》の劒《つるぎ》五《いつ》にまさりて切味《きれあぢ》よきことしば/\是あり 七〇―七二
汝もしルーニとウルビサーリアとがはや滅び、キウーシとシニガーリアとがまたその後《あと》を追ふを見ば 七三―七五
家族《やから》の消失するを聞くとも異《あや》しみ訝《いぶか》ることなからむ、邑《まち》さへ絶ゆるにいたるをおもひて 七六―七八
そも/\汝等に屬する物はみな汝等の如く朽《く》つ、たゞ永く續く物にありては、汝等の生命《いのち》の短きによりて、この事隱るゝのみ 七九―八一
しかして月天の運行が、たえず渚《なぎさ》をば、蔽《おほ》ふてはまた露《あら》はす如く、命運フィオレンツァをあしらふがゆゑに 八二―八四
美名《よきな》を時の中に失ふ貴きフィレンツェ人《びと》についてわが語るところのことも異《あや》しと思はれざるならむ 八五―八七
我はウーギ、カテルリニ、フィリッピ、グレーチ、オルマンニ、及びアルベリキ等なだゝる市民のはや倒れかゝるを見 八八―九〇
またラ・サンネルラ及びラルカの家長《いへをさ》、ソルダニエーリ、アルディンギ、及びボスティーキ等のその舊《ふる》きがごとく大いなるを見たり 九一―九三
今新なるいと重き罪を積み置く――その重さにてたゞちに船を損ふならむ――かの門の邊《ほとり》には 九四―九六
ラヴィニアーニ住み居たり、伯爵《コンテ》グイード、及びその後貴きベルリンチオーネの名を襲《つ》げる者皆これより出づ 九七―九九
ラ・プレッサの家長《いへをさ》は既に治むる道を知り、ガリガーイオは黄金裝《こがねづくり》の柄《つか》と鍔《つば》とを既にその家にて持てり 一〇〇―一〇二
「ヴァイオ」の柱、サッケッティ、ジユオキ、フィファンティ、バルッチ、ガルリ、及びかの桝目の爲に赤らむ家族《やから》いづれも既に大なりき 一〇三―一〇五
カルフッチの出でし木の根もまた既に大なりき、シツィイとアルリグッチとは既に貴《たか》き座に押されたり 一〇六―一〇八
かの己が傲慢《たかぶり》の爲遂に滅ぶにいたれる家族《やから》もわが見し頃はいかなりしぞや、黄金《こがね》の丸《たま》はそのすべての偉業をもてフィオレンツァを飾り 一〇九―一一一
汝等の寺院の空《あ》くごとに相集《あひつど》ひて身を肥《こ》やす人々の父もまたかくなしき 一一二―一一四
逃ぐる者をば龍となりて追ひ、齒や財布を見する者には羔《こひつじ》のごとく柔和《おとな》しきかの僭越の族《うから》 一一五―一一七
既に興れり、されど素姓《うぢ》賤しかりしかば、ウベルティーン・ドナートはその後舅が彼をばかれらの縁者となしゝを喜ばざりき 一一八―一二〇
カーポンサッコは既にフィエソレを出でゝ市場《いちば》にくだり、ジウダとインファンガートとは既に良《よき》市民となりゐたり 一二一―一二三
今我信じ難くして而して眞《まこと》なる事を告げむ、ラ・ペーラの家族《やから》に因《ちな》みて名づけし門より人かの小さき城壁の内に入りし事即ち是なり 一二四―一二六
トムマーゾの祭によりて名と徳とをたえず顯《あら》はすかの大いなる領主《バーロネ》の美しき紋所を分け用ゐる者は、いづれも 一二七―一二九
騎士の位と殊遇とを彼より受けき、たゞ縁《へり》にてこれを卷くもの今日庶民と相結ぶのみ 一三〇―一三二
グアルテロッティもイムポルトゥーニも既に榮えき、もし彼等に新なる隣人《となりびと》等|微《なか》りせば、ボルゴは今愈※[#二の字点、1−2−22]よ靜なりしならむ 一三三―一三五
義憤《ただしきいかり》の爲に汝等を殺し汝等の樂しき生活を斷《た》ち、かくして汝等の嘆を生み出せる家は 一三六―一三八
その所縁《ゆかり》の家族《やから》と倶《とも》に崇《あが》められき、あゝブオンデルモンテよ、汝が人の勸《すゝ》めを容《い》れ、これと縁《えにし》を結ぶを避けしはげにいかなる禍《わざは》ひぞや 一三九―一四一
汝はじめてこの邑《まち》に來るにあたり神汝をエーマに與へ給ひたりせば、多くの人々今悲しまで喜べるものを 一四二―一四四
フィオレンツァはその平和終る時、犧牲《いけにへ》をば、橋を護《まも》るかの缺石《かけいし》に獻げざるをえざりしなりき 一四五―一四七
我はフィオレンツァにこれらの家族《やから》と他の諸※[#二の字点、1−2−22]の家族とありて、歎くべき謂れなきまでそのいと安らかなるを見たり 一四八―一五〇
またこれらの家族《やから》ありて、その民榮えかつ正しかりければ、百合は未だ倒《さかさ》に竿に着けられしことなく 一五一―一五三
分離の爲紅に變ることもなかりき[#一五四]
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   第十七曲

今|猶《なほ》父をして子に對《むか》ひて吝《やぶさか》ならしむる者、人の己を誹《そし》るを聞き、事の眞《まこと》を定《さだ》かにせんためクリメーネの許《もと》に行きしことあり 一―三
我また彼の如くなりき、而してベアトリーチェも、また先にわがために處を變へしかの聖なる燈《ともしび》も、わが彼の如くなりしを知りき 四―六
是故に我淑女我に曰ふ。汝の願ひの焔を放て、そが汝の心の象《かた》をあざやかにうけていづるばかりに 七―九
されどこは汝の言《ことば》によりてわれらの知識の増さん爲ならず、汝が渇《かわき》を告ぐるに慣《な》れ、人をして汝に飮ますをえしめん爲なり。 一〇―一二
あゝ愛するわが根よ(汝いと高くせられ、あたかも人智が一の三角の内に二の鈍角の容《い》れられざるを知るごとく 一三―一五
苟且《かりそめ》の事をその未だ在らざるさきに知るにいたる、これ時の現在《いま》ならぬはなき一の點を視るがゆゑなり) 一六―一八
われヴィルジリオと倶《とも》にありて、諸※[#二の字点、1−2−22]の魂を癒《いや》す山に登り、また死の世界にくだれる間に 一九―二一
わが將來《ゆくすゑ》の事につきて諸※[#二の字点、1−2−22]のいたましき言《ことば》を聞きたり、但し命運我を撃《う》つとも我よく自らとれに堪《た》ふるをうるを覺ゆ 二二―二四
是故にいかなる災《わざはひ》のわが身に迫《せま》るやを聞かばわが願ひ滿《み》つべし、これ豫《あらかじ》め見ゆる矢はその中る力弱ければなり。 二五―二七
さきに我に物言へる光にむかひて我かくいひ、ベアトリーチェの望むごとくわが願ひを明《あか》したり 二八―三〇
諸※[#二の字点、1−2−22]の罪を取去る神の羔《こひつじ》未だ殺されざりし昔、愚《おろか》なる民を惑《まど》はしゝその語《ことば》の如く朧《おぼろ》ならず 三一―三三
明らかにいひ定かに語りてかの父の愛、己が微笑《ほゝゑみ》の中に隱れかつ顯《あら》はれつゝ、答ふらく 三四―三六
それ苟且《かりそめ》の事即ち汝等の物質の書《ふみ》より外に延びざる事はみな永遠《とこしへ》の目に映ず 三七―三九
されど映ずるが爲にこの事必ず起るにあらず、船流れを下りゆけどもそのうつる目の然らしむるにあらざるに似たり 四〇―四二
この永遠の目より汝の行末のわが目に入り來ることあたかも樂器よりうるはしき和合の音の耳に入り來る如し 四三―四五
イッポリートが無情邪險の繼母《まゝはゝ》の爲にアテーネを去れるごとく、汝フィオレンツァを去らざるべからず 四六―四八
日毎《ひごと》にクリストの賣買《うりかひ》せらるゝ處にてこれを思ひめぐらす者これを願ひかつはや企圖《たくみ》ぬ、さればまた直ちにこれを行はむ 四九―五一
虐《しひた》げられし人々に世はその常の如く罪を歸すべし、されど刑罰はこれを頒《わか》ち與ふるものなる眞《まこと》の爲の證《あかし》とならむ 五二―五四
いと深く愛する物をば汝|悉《こと/″\》く棄て去らむ、是即ち流罪《るざい》の弓の第一に射放つ矢なり 五五―五七
他人《ひと》の麺麭《パン》のいかばかり苦《にが》く他人《ひと》の階子《はしご》の昇降《のぼりくだり》のいかばかりつらきやを汝自ら驗《ため》しみむ 五八―六〇
しかして最も重く汝の肩を壓《お》すものは、汝とともにこの溪《たに》に落つる邪惡庸愚の侶なるべし 六一―六三
かれら全く恩を忘れ狂ひ猛《たけ》りて汝に背《そむ》かむ、されどかれら(汝にあらず)はこれが爲に程なく顏を赤うせむ 六四―六六
かれらの行爲《おこなひ》は獸の如きその性《さが》の證《あかし》とならむ、されば汝|唯一人《たゞひとり》を一の黨派たらしむるかた汝にとりて善《よ》かるべし 六七―六九
汝の第一の避所《さけどころ》第一の旅舍《やどり》は、聖なる鳥を梯子《はしご》の上におくかの大いなるロムバルディア人《びと》の情《なさけ》ならむ 七〇―七二
彼汝に對《むか》ひて深き好意《よしみ》を有《も》つが故に、爲す事と求むる事との中《うち》他の人々の間にてはいと遲きものも汝等|二人《ふたり》の間にては先となるべし 七三―七五
己が功《いさを》の世に顯《あら》はるゝにいたるばかりこの強き星の力を生るゝ時に受けたる者をば汝彼の許《もと》に見む 七六―七八
人々未だこの者を知らじ、そはその年若く諸天のこれをめぐれることたゞ九年《こゝのとせ》のみなればなり 七九―八一
されどかのグアスコニア人《びと》が未だ貴きアルリーゴを欺《あざむ》かざるさきにその徳の光は、銀《かね》をも疲《つかれ》をも心にとめざる事において現はれむ 八二―八四
その諸※[#二の字点、1−2−22]の榮《はえ》ある業《わざ》はこの後|遍《あまね》く世に知られ、その敵さへこれについて口を噤《つぐ》むをえざるにいたらむ 八五―八七
汝彼と彼の恩惠《めぐみ》とを望み待て、彼あるによりて多くの民改まり、貧富|互《かたみ》に地を更《か》へむ 八八―九〇
汝また彼の事を心に記して携《たづさ》へ行くべし、されど人に言ふ莫《なか》れ。かくて彼は面《まのあたり》見る者もなほ信ずまじきことどもを告げ 九一―九三
後加ふらく。子よ、汝が聞きたる事の解説《ときあかし》は即ち是なり、是ぞ多からぬ年の後方《うしろ》にかくるゝ係蹄《わな》なる 九四―九六
されど汝の隣人《となりびと》等を妬《ねた》むなかれ、汝の生命《いのち》はかれらの邪惡の罰よりも遙に遠き未來に亘るべければなり。 九七―九九
かの聖なる魂|默《もだ》し、經《たていと》を張りてわが渡したる織物に緯《よこいと》を入れ終りしことをあらはせる時 一〇〇―一〇二
あたかも疑ひをいだく者が、智あり徳あり愛ある人の教へを希《ねが》ふごとく、我|曰《いひ》けるは 一〇三―一〇五
わが父よ、我よく時の我に打撃を與へんとてわが方《かた》に急ぎ進むを見る、しかしてこは思慮なき人にいと重く加へらるべき打撃なり 一〇六―一〇八
是故にわれ先見をもて身を固《かた》むるを宜《よ》しとす、さらばたとひ最愛の地を奪はるともその他の地をばわが歌の爲に失ふことなからむ 一〇九―一一一
果《はてし》なき苦しみの世にくだり、またわが淑女の目に擧げられて美しき巓をばわが離れしその山をめぐり 一一二―一一四
後また光より光に移りつゝ天を經《へ》てわが知るをえたる事を我もし語らば、そは多くの人にとりて味《あぢはひ》甚だ辛《から》かるべし 一一五―一一七
されど我もし眞理に對《むか》ひて卑怯の友たらんには、今を昔と呼ぶ人々の間に生命《いのち》を失ふの恐れあり。 一一八―一二〇
かのわが寶のほゝゑむ姿を包みし光は、まづ日の光にあたる黄金《こがね》の鏡のごとく煌《きらめ》き 一二一―一二三
かくて答ふらく。己が罪または他人《ひと》の罪の爲に曇れる心は、げに汝の言《ことば》を烈《はげ》しと感ぜむ 一二四―一二六
しかはあれ、一切の虚僞《いつはり》を棄てつゝ、汝の見し事をこと/″\くあらはし、瘡《かさ》ある處は人のこれを掻くに任《まか》せよ 一二七―一二九
汝の聲はその味《あぢ》はじめ厭《いと》は
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