多くの輝二の光線の中にて我に現はれ、あゝかくかれらを飾るエリオスよとわがいへるほど燦《あざや》かにかつ赤かりければなり 九四―九六
たとへば銀河が、大小さま/″\の光を列《つら》ねて宇宙の兩極の間に白み、いと賢き者にさへ疑ひをいだかしむるごとく 九七―九九
かの光線は、星座となりつゝ、火星の深處《ふかみ》に、象限《しやうげん》相結びて圓の中に造るその貴き標識《しるし》をつくれり 一〇〇―一〇二
さて茲《こゝ》に到りてわが記憶才に勝つ、そはかの十字架の上にクリスト煌《かゞや》き給ひしかど我は適《ふさ》はしき譬《たと》へを得るをえざればなり 一〇三―一〇五
されど己が十字架をとりてクリストに從ふ者は、いつかかの光明の中に閃《ひら》めくクリストを見てわがかく省《はぶ》くを責めざるならむ 一〇六―一〇八
桁《けた》より桁にまた頂《いたゞき》と脚《あし》との間に諸※[#二の字点、1−2−22]の光動き、相會ふ時にも過ぐるときにもかれらは強くきらめけり 一〇九―一一一
己を護《まも》らんため智《さとり》と技《わざ》とをもて人々の作る陰を分けつゝをりふし條《すぢ》を引く光の中に、長き短き極微の物體 一一二―
或ひは直《なほ》く或ひは曲《ゆが》み、或ひは疾く或ひは遲く、たえずその容《かたち》を變へて動くさままたかくの如し ―一一七
また譬《たと》へば多くの絃《いと》にて調子《しらべ》を合せし琵琶《びわ》や琴が、節《ふし》を知らざる者にさへ、鼓音《ひくね》妙《たへ》にきこゆるごとく 一一八―一二〇
かしこに顯《あらは》れし諸※[#二の字点、1−2−22]の光より一のうるはしき音《おと》十字架の上にあつまり、歌を解《げ》しえざりし我もこれに心を奪はれき 一二一―一二三
されど我よくそが尊き讚美なるを知りたり、そは起《た》ちて勝てといふ詞、解せざれどなは聞く人に聞ゆる如く、我に聞えたればなり 一二四―一二六
わが愛これに燃やされしこといかばかりぞや、げに是時にいたるまで、かくうるはしき絆《きづな》をもて我を繋《つな》げるもの一だになし 一二七―一二九
恐らくはわがこの言《ことば》、かの美しき目(これを視ればわが願ひ安んず)の與ふる樂をかろんじ、餘りに輕率《かるはずみ》なりと見えむ 一三〇―一三二
されど人もし一切の美を捺《お》す諸※[#二の字点、1−2−22]の生くる印がその高きに從つて愈※[#二の字点、1−2−22]強く働く事と、わが未だ彼處《かしこ》にてかの目に向はざりし事とを思はゞ 一三三―一三五
わが辯解《いひひら》かんため自ら責むるその事をもて我を責めず、かつわが眞《まこと》を告ぐるを見む、そはかの聖なる樂しみをわれ今除きていへるに非ず 一三六―一三八
これまたその登るに從つていよ/\清くなればなり 一三九―一四一
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第十五曲
慾を惡意のあらはすごとくまつたき愛をつねにあらはす善意によりて 一―三
かのうるはしき琴は默《もだ》し、天の右手《めで》の弛《ゆる》べて締《し》むる聖なる絃《いと》はしづまりき 四―六
そも/\これらの靈體は、我をして彼等に請ふの願ひを起さしめんとて皆|齊《ひと》しく默《もだ》しゝなれば、いかで正しき請《こひ》に耳を傾けざらんや 七―九
苟且《かりそめ》の物を愛するため自ら永遠《とこしへ》にこの愛を失ふ人のはてしなく歎くにいたるも宜《むべ》なる哉《かな》 一〇―一二
靜なる、清き、晴和《のどけ》き空《そら》に、ゆくりなき火しば/\流れて、やすらかなりし目を動かし 一三―一五
位置を變ふる星と見ゆれど、たゞその燃え立ちし處にては失せし星なくかつその永く保たぬごとくに 一六―一八
かの十字架の右の桁《けた》より、かしこに輝く星座の中の星一つ馳せ下りて脚《あし》にいたれり 一九―二一
またこの珠《たま》は下るにあたりてその紐を離れず、光の線《すぢ》を傳ひて走り、さながら雪花石《アラバストロ》の後《うしろ》の火の如く見えき 二二―二四
アンキーゼの魂が淨土《エリジオ》にてわが子を見いとやさしく迎へしさまも(われらの最《いと》大いなるムーザに信をおくべくば)かくやありけむ 二五―二七
あゝわが血族《うから》よ、あゝ上より注がれし神の恩惠《めぐみ》よ、汝の外誰の爲にか天《あめ》の戸の二|度《たび》開かれしことやある。 二八―三〇
かの光かく、是に於てか我これに心をとめ、後《のち》目をめぐらしてわが淑女を見れば、わが驚きは二重《ふたへ》となりぬ 三一―三三
そは我をしてわが目にてわが恩惠《めぐみ》わが天堂の底を認むと思はしむるほどの微笑《ほゝゑみ》その目のうちに燃えゐたればなり 三四―三六
かくてかの靈、聲姿ともにゆかしく、その初の音《ことば》に添へて物言へり、されど奧深くしてさとるをえざりき 三七―三九
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